鴻上 人生 相談。 『鴻上尚史のほがらか人生相談』に学ぶ、人の悩みを聞く極意

鴻上尚史のもっとほがらか人生相談 息苦しい「世間」を楽に生きる処方箋

鴻上 人生 相談

これまで『不死身の特攻兵』などの著書で日本における「世間」や「」をテーマとして扱ってきた著者だけに、日本人を相手としたこの 人生相談では、ときに の「世間論」の講義が展開されたりする。 たとえば相談2の「個性的な服を着た帰国子女の娘がいじめられそうです」などは、まさに日本特有のに苦しめられる子供の悩みだけに、著者の「世間論」の知見が生かされる。 に言わせれば、ここで相談者の娘が直面しているのは 「日本そのもの」だ。 彼いわく、敵は日本そのものなのだから、正面切って戦いを挑めば必ず負ける。 そこで はささやかな抵抗として、学校ではに合わせて地味な服を着て登校し、放課後や友達と出かけるときは好きな服を着る、という方法を提案する。 もしその服がおしゃれだと思われれば友達も同じような格好をはじめ、しだいに仲間が増えるかもしれない。 世間に全面的に屈するのでもなく、勝ち目のない戦いを挑むのでもなく、あくまで現実的な自分の通し方がここでは提案されている。 相談者が受け入れやすいアドをしていることも、この人生相談が人気を得ている理由のひとつだろう。 しかし、いつでもこうして世間の重圧をうまくかわせばいいというわけではない。 のアドは柔軟で、相手によってはもっと異なる世間との付き合い方をすすめることもある。 相談4ではもっとヘビーな「世間」の重圧に悩まされる人が出てくるが、「妹が鬱なのに、家族が世間体を気にして病院へ通わせてくれない」という相談者の悩みは深刻だ。 こういう全然「ほがらか」ではない相談にも、 は真剣に回答している。 ここで、 は相談者にもし、妹さんの状態がそのままで30年が過ぎたらどうなりますか、と問いを投げかける。 68歳になったあなたが、社会から切り離され、実質上の軟禁状態に置かれたまま65歳になった妹さんの面倒を見ることができますか、というのだ。 このくだりは正直読むのがかなりきつい。 も「これを書くのもつらい」と言っているのだが、こういう可能性を突きつけたうえで、やはり今のうちに病院に連れていくべきだ、と彼は諭す。 もちろん最後に「心から応援します」と付けくわえる心配りも忘れていない。 避けられる悲劇を避けるためには、真正面から世間と戦わなくてはいけないこともあるのだ。 人の悩みを聞くうえでやってはいけないこと この本を読み進めるうちに、「どうすればこれほど相談者の気持ちに寄り添った回答ができるのか」と考えるようになった。 この問いに対するヒントが、相談24の「高校時代の友人A子から絶交されました」への回答の中に詰まっている。 この相談は、 の人生相談の中でもネット上ではかなり話題になったものだ。 相談者の「さやか」さんは、高校時代に友人のA子さんの悩みに対していろいろとアドをしていたのだが、社会人になってからA子さんから絶交したいと言われてしまった。 「さやかのアドはいつも上から目線で鬱陶しい、人の家の事情を細かく聞いてきて苦痛だった」……とかつての親友から積年の恨みをぶつけられ混乱したさやかさんの相談は、「人の相談にはどう乗るべきだったのでしょうか」だ。 のように的確で優しいアドをするにはどうすればいいのかという、 「メタ人生相談」ともいえる問いだ。 この相談に対し、 は「A子さんが相談に乗ってほしいと言ってきたときと、さやかさんがなんでも聞くよと言ってきたときと、どちらが多かったですか」と聞いている。 もしさやかさんが話を聞くよ、と言った回数の方が多かったのなら、それは善意の押しつけだったかもしれない、ということだ。 さらに、「たしかに厳しいことも言ったけど、それもA子を思ってしたこと」という相談者の言い方にも突っ込む。 「あなたのためを思って」なんていうのは無理解な親の言いがちなことで、結局あなたは独りよがりなアドをしていただけかもしれませんよ、ということだ。 さやかさんがA子さんに言ったという「子供を愛さない親なんているわけがない」という台詞からも、そのことは察せられる。 自分の中だけの常識を人の家庭に勝手に当てはめてアドをしてはいけない。 アドされる側からすれば、それは価値観の押しつけでしかないのだ。 そして、ではどうしてそんなに上から目線のさやかさんとA子さんが友達付き合いをしていたのか、というところにも話は及ぶ。 は自身の留学体験を語りつつ、「たとえ見下されながらでも、話しかけられると孤独がまぎれるので嬉しい」という状況があるということをていねいに解説する。 高校時代のA子さんもそんな心境だったのだろう、ということだ。 続いて、社会人になり、こちらをかわいそうな人と見下さない、対等な付き合いをしてくれる友人ができれば、A子さんにさやかさんのような上から目線の友人は必要なくなる。 だから絶交すると言い出したのだろう……と は推測している。 こう書くとかなり容赦のない分析をしているように思えるかもしれないが、実際には の書き方はとても柔らかく、さやかさんは優しい人だからそうしてアドするんですね、と相談者を何度も肯定している。 そのうえで、これ以上できないくらい相談者と親友の関係性をわかりやすくかみ砕いて説明しているので、言っていることがすんなりと呑み込める。 も書いているとおり、相談者は善意の人ではあるだろう。 だが、善意の表現の仕方にいろいろと問題がある。 善意はこちらから押し付けるものではなく、アドも実行するかどうかを決めるのは相手だ。 と相談者とでは、悩みを抱える人の気持ちを想像する力、相手に対する気配り、コミュニケーションの取り方などに雲泥の差がある。 の文章はできるだけ上から目線にならないよう、押しつけがましくならないように配慮されているし、この人なら悩みを打ち明けても決して頭ごなしにこちらを否定してこないだろう、という安心感を持てる。 だからこそ、多くの人が に悩みを相談してくるのだろう。 人の悩みに答えたいなら、まずは悩みを打ち明けてもらえる人間になるしかない。 の「神回答」の秘密はどこにあるのか では、どうすれば「悩みを打ち明けてもらえる人」になれるだろうか。 この本を読んでいて大事だと思ったことは以下の4点だ。 それだけでなく、回答中に何度も相手の名前を読んでいる。 相談者は何度も呼ばれているうちに に親しみを感じるだろうし、ちゃんと話を聞いてもらえている、という安心感を抱くだろう。 心を開けない相手には、人は大事なことは話さない。 小さいことだが、あなたの存在をちゃんと受け止めていますよ、というメッセージを送り続けることが大事。 2.相手を肯定する 先に書いた相談24のさやかさんは、ネット上での評判はかなり悪かった。 独善的な人だと思われてしまったのだろう。 でも は、そういう人のことも肯定しつつ話をすすめるのを怠らない。 この相談では、 は「人のことを思い、良い人生を送って欲しいと、さやかさんは思っているんですよね。 とても優しい人だと思います」 と書いている。 この相談者を優しいと思わなかった人も多かったと思うが、それでも肯定する。 悩みを打ち明けてくれた相手には敬意を払わなくてはならない。 そうでなければ相手は心を閉ざすし、心を閉ざした相手はどんなにいいアドも聞いてはくれない。 3.比喩を工夫する は比喩の名手だ。 たとえば「学校のグループでは最下層扱い。 本当の友だちが欲しい」と悩む女子高生に、「人間関係とはお土産を渡し合うことだ」という話をする。 友達が欲しいのなら、情報なり優しい言葉なり、勉強を教えるなり、なんらかの「おみやげ」を渡す必要があるので、なんなら渡せるかを考えましょう、というアドをするためだ。 こういう比喩を使うと、「友達が欲しいならまず相手のことを考えないとね」みたいな説教くさい話をするより、ずっと聞き手は受け入れやすくなる。 自身も相談者のことを考えて相手を肯定したり、柔らかい言葉をつかったりとたくさんの「おみやげ」を渡した結果として人生相談が人気になっているので、ますます話に説得力が出てくる。 4.できるだけ見聞を広め、とアド力を高める 1と2はアドを聞いてもらうための土台作りだが、そのうえでいいアドをするには、やはり多くのことを知らなくてはいけない。 独りよがりのアドをしないために多くの価値観を学ぶ必要があるし、広く世間というものを知らなくてはいけない。 そして、何より人間通でなくてはならない。 は劇団の人間関係の中で鍛えられたとあとがきで書いているが、生の人間と人間がぶつかる現場に居合わせることで、否応なくコミュニケーション能力、総合的ながが鍛えられるだろう。 相談16では、「大学生の息子が俳優になりたがっているが、人生を棒に振ってしまうのではないか」という悩みに対し、こうして演劇で身につけた能力は必ず就職しても役立つものだとも回答している。 多くの文芸作品に触れることも大事だ。 は相談24で相談者にの『春にして君を離れ』を読むことをすすめているが、文芸作品は人の心の機微を学ぶうえで大いに役立つ。 そして、こういうところで相手にふさわしい作品をすぐに選び出すためにも、多くのフィクションに触れていなければならない。 また、相手の心に寄り添える文章表現や的確な比喩を思いつくためにも、日ごろから文芸に親しんでおく必要がある。 5.自分の限界を知る にも答えられない相談はある。 相談13の「大学を休学、何もしてない自分への嫌気で苦しくなります」という悩みに対して、この本では相談者が混乱していることを指摘しつつ、精神科の受診をすすめている。 この相談で、 は 「人生相談なのに、受診をすすめるのはある意味仕事の放棄かもしれません。 でも、僕にはこれが一番いい回答だと思えるのです」と書いている。 自分には手に負えない問題と認めたらいさぎよくアドをあきらめ、専門家にゆだねる、この見切りの良さも大事だ。 これだけ人気のあるコーナーを持っていると、人はつい自信過剰になり、どんな相談にでも答えられると思ってしまいがちだ。 なら、何か気の利いたことのひとつも言って読者をうならせてやろう、という欲にもかられるだろう。 だがこれは悩み相談なので、相談者の悩みを表現欲のダシにしてはいけない。 こういうところでしっかり抑制を利かせているあたりにも、著者の誠実さが感じられる。 そんなの無理、と思われただろうか。 正直私もそう思う。 1や2はなんとか実行できるとしても(これだって相手によっては難しいだろう)、3は生まれもった文才やセンスによるところが大きいかもしれないし、4についても演劇みたいな濃い人間関係を経験してないから厳しいな、と思えてくる。 演劇こそがを高める、というのは劇団を主宰していた著者ならではのではあるかもしれないけれども、演劇と同程度に濃い人間関係のなかで揉まれてきた人がどれだけいるのか、という話だ。 そして、実は5こそがもっとも難しいことではないか、という気もする。 人はどんな問題についても、ついなにか言ってしまいたくなる生き物だ。 明らかに自分の分を超えた問題に対してもだ。 しかし、人の人生に責任を負うからには、自分では扱えない問題に対しては言及欲をセーブしなくてはならない。 相談者の抱える問題の大きさを正確に見極める知性と、つい物申したくなる自分を抑える禁欲的な態度がここでは求められる。 こうして見てくると、やっぱりこんなの でもないと無理だろう、と思えてくる。 事実そうかもしれない。 相談者は にしかできない回答を求めて相談しにくるのだし、読者も の回答だからこそ熱心に読みたがる。 その結果が5000万pvオーバーという数字に表れている。 そんなナンバーワンにしてオンリーワンの人生相談を、本書では28回もまとめて読める。 これほど中身の濃い一冊も、またないだろう。 saavedra.

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鴻上尚史さんが、あなたの悩みにこたえます! 月刊誌『一冊の本』で「人生相談」連載開始

鴻上 人生 相談

「4歳の娘が可愛くない」とSOSを出す母親に、鴻上さんがまず最初に聞いたこと 例えば、「4歳の娘が可愛くありません」という41歳の母親の相談。 怒鳴ったり手をあげたりてしまう前に知恵を貸して欲しいと悩む相談者に、鴻上さんの相談は、「ごんつくさん、本当に大変ですね」と語りかけるところから始まり、0歳児からイヤイヤ期までの「理屈の通じなさ」と4歳児以降の「理屈の通じなさ」の違いを丁寧に説いていきます。 そして相談者へ睡眠がとれているかと心配し、周囲の人間か、そうでなかったらネットで「悩みを共有できる話し相手をつくりましょう」という具体策を提案。 「子育てを頑張らない」「手抜き」というキーワードで娘さんとの距離と見守りを勧め、この回答にはママ友の間で「男性の鴻上さんがこんなに子育ての大変さを具体的に理解してくれるなんて!」とSNSで大拡散されました。 「家庭環境に恵まれなかった彼女の悩みを聞いてアドバイスしてきた」という相談者に、鴻上さんは「とても優しい人」と相談者を理解しながら「でも、よかれと思ってアドバイスすることは簡単ではない」と語りかけます。 鴻上さん自身がイギリス留学時にクラスで会話についていけず孤独だったときの経験を踏まえ、「あきらかにかわいそうと見下されている相手からでも、話しかけられると嬉しいという感覚」を強烈な体験だったと振り返りながら「かわいそう。 何かしてあげたい、と思うことは、とても気をつけないと相手を無意識に見下すことになる」のだと相談者にうったえます。 この回答も「わが身も気を付けよう」と多数リツイート、また、法政大学キャリアデザイン学部教授の上西 充子教授は、授業でテーマに取り上げたことを、ツイートするほどの反響ぶりでした。 鬱症状の妹を隠そうとする家族を嘆く相談者に、 鴻上さんが訴える30年後の悲劇 または「鬱症状の妹が田舎に帰ってきましたが、世間体を気にする家族が、病院に通わせようとしません」と吐露した38歳男性の悩み。 鴻上さんは「あなたの悩みは深刻で緊急」と語りかけ、30年後、世間に忠誠を誓い続けた両親ではなく、あなたに妹さんの人生がのしかかるのだと、症状が悪化する可能性、そのリアルな結果を予測し、「病院に連れていくべき」と、いますべきことを現実的、具体的に進言します。 夫婦、子育て、職場、学校、恋愛、友人、親戚、孤独、コンプレックス……。 鴻上さんの回答に共通するのは、すべての相談者の悩める事態へ、けっして頭ごなしに否定することなく、優しく寄り添いながら語りかけ、ときには生きるための応急措置、心のしずめ方、また人間関係のなかで生き抜くための戦術まで、リアルで実践可能な解決策を提案していることです。 誰もがかかえる生きづらい人生の悩みに「観念的ではなく、理想論でも精神論でもなく、具体的で実行可能なアドバイス」をそっと差し出してくれる珠玉の回答の数々。 これまでにない人生相談への熱い支持は、ますます広がりを見せています。 【 著者紹介】 鴻上尚史(こうかみ・しょうじ)/作家・演出家。 1958年、愛媛県生まれ。 早稲田大学卒。 在学中に劇団「第三舞台」を旗揚げ。 94年「スナフキンの手紙」で岸田國士戯曲賞受賞、2010年「グローブ・ジャングル」で読売文学賞戯曲賞。 現在は、「KOKAMI@network」と「虚構の劇団」を中心に脚本、演出を手掛ける。 Twitter @KOKAMIShoji も随時更新中。 月刊誌「一冊の本」(朝日新聞出版)、ニュースサイト「AERA dot. 」で『鴻上尚史のほがらか人生相談~息苦しい「世間」を楽に生きる処方箋』を連載中。 【 書籍情報】 『鴻上尚史のほがらか人生相談~息苦しい「世間」を楽に生きる処方箋』 著者:鴻上尚史 発売日:2019年9月20日 価格:本体1,300円+税 仕様:四六判並製 256ページ ISBN:978-4-02-251631-2 出版社:朝日新聞出版.

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鴻上尚史のもっとほがらか人生相談 息苦しい「世間」を楽に生きる処方箋

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『 鴻上尚史のほがらか人生相談 息苦しい「世間」を楽に生きる処方箋』(鴻上 尚史 著、朝日新聞出版)に集められている数々の相談ごとは、月刊誌『一冊の本』(朝日新聞出版)に掲載されたもの。 一回の掲載ごとに、著者が3~4本の相談に答え、それをウェブメディア「AERA dot. 」が一週間に一本の割合で紹介したところ、多くの反響があったのだそうです。 明快な回答が共感を呼んだということで、これまでに700を超える相談が寄せられているのだといいます。 「ほがらか人生相談」というタイトルですが、ほがらかなものは少なく、深刻だったり、重かったり、切実だったりするものが多いです。 (「はじめに」より) このことばどおり、 寄せられている相談は、いじめ、人間関係、恋愛、差別問題、虐待など多種多様。 まさに現代社会の縮図のようです。 しかし、それでも暗くネガティブに終わらないとことが本書の魅力。 著者はこれまでにいろんな人から、「人生相談に答えるのは大変でしょう」と言われたのだそうです。 しかし実際には、そんなに大変ではなかったのだとか。 その理由をご自身で、 ずっと演劇の演出家をしているからだと分析しています。 演劇の現場でさまざまな人からさまざまな相談を受け、それらに答えてきたことに、大きな意味があったというのです。 演劇という人間と人間がぶつかる場所で、なんとかギリギリの落とし所を見つけようとして、観念的ではなく、理想論でもなく、精神論だけでもなく、具体的で、実行可能な、だけど小さなアドバイスをずっと探してきた結果だと思います。 (「あとがきにかえて」より) こうした考え方に基づく本書のなかから、「人と話すこと」に今日を感じて悩んでいる人の相談と、著者からの答えを抜き出してみましょう。 人前で話すことが怖いです。 あがり症のなおし方を教えてください 相談者のりゅうさん(31歳・男性)は、自分でもいやになるほどのあがり症なのだそうです。 高校のときに出た英語スピーチの大会で緊張し、自分をコントロールできなくなったことがあったのだといいます。 そこから、人前で話すことがさらに怖くなり、大学ではそういう場は避けていましたが、ゼミの発表など必須のこともあって、本当に憂鬱でしたし、やっぱりうまくいきませんでした。 プレゼンなど発表形式で、人前で話す時にどうしてもあがって声がうわずってしまうのです。 重要なプレゼンに僕が指名されることは、今ではほとんどなくなりました。 どうにかこのあがり症をなおしたいです。 (108~109ページより) この相談を受けて著者は、 「人前」で緊張するという人は、漠然としか「人前」をとらえていないと指摘しています。 つまり、曖昧なイメージの「人前」におびえているということ。 敵と戦うときに、敵の正体がわからないと恐怖感は高まるもの。 人と話すときにも、同じことがいえるというのです。 逆にいえば、自分が緊張してしまう「人前」がわかってきたら、緊張しない「人前」も明確になってくるということになるのではないでしょうか。 一番、わかりやすい例だと、「とにかく2人以上の同僚か上司に会議室で話すのは緊張する」と分かると、まず、1人を相手に話します。 最初は喫茶店とかがいいでしょう。 相手になってくれる人はいますか? (中略)そこで、ちゃんと話せたら、その「勝ち味」をかみしめましょう。 そして、自分をちゃんとほめてあげましょう。 「自分は、一人が相手なら、緊張しないで話せるんだ。 えらいぞ、俺」とほめるのです。 りゅうさんは昔、英語の発表で強引に「負け味」を口の中に押し込められたのです。 ひとつひとつ、丁寧に回復していきましょう。 (113ページより) 喫茶店で、1人を相手にちゃんと話すことができたら、次は2人の同僚を相手に、会議室ではなく喫茶店で話してみましょうと著者は提案しています。 すなわちそれは、 「人数」「場所」「人間」のうちのひとつをレベルアップしてみるということ。 ちなみに「場所」は、自分がホッとできる場所ほどハードルは低いもの。 そのため、同僚2人を「自宅」に招き、そこで発表してみれば、いちばんリラックスできるかもしれないといいます。 もしもそれがうまくいったら、次は会議室へ移動。 でも同僚や上司が相手だと緊張してしまうというのであれば、まずは新人の社員に頼んで話を聞いてもらってもOK。 そして、それがうまくいったなら、いよいよ会議室で同僚2人を相手にするわけです。 そうやって、 ていねいに「勝ち味」を重ねていくことが大切だという考え方。 どんな「人前」でもダメだ、とにかく人が怖いという状態なら、「 社会不安障害」という病気の可能性も考えられるかもしれません。 しかしそれは病気なので、病院で専門医に診てもらえばなおるはず。 そこで深く考えすぎず、軽い気持ちで心療内科か精神科を受けることを著者は勧めています。 そうではなく、緊張する「人前」と緊張しない「人前」が区別できる場合は、焦らず「緊張しないレベル」からゆっくり、「勝ち味」を味わいながら進んでいくべき。 相談者の場合であれば、中学校以前は普通に話せたわけです。 だから、その状態に戻ればいいだけ。 焦らず、一歩ずつ進むことが大切だといいます。 (108ページより) どんなに嫌な人がいても、どんなに対立しても、どんなに怒っても、幕を開けなければならないのがプロの演劇の現場。 したがって、その嫌悪や対立や怒りを、少しでも減らしたり、折り合いをつけたり、しばらく忘れたり、どうにか解決方法を考え出さなければ仕方がないのだといいます。 著者はそのため、長きにわたって人生相談に答えてきたわけです。 しかし本書を読んでいると、そのことばが演劇の世界のみならず、あらゆる環境で生きる人たちの共感を得るだけの力を持っていることに気づくことでしょう。 Photo: 印南敦史 Source: 朝日新聞出版.

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