いかに心もとなく思すらむ 現代語訳。 「十訓抄/大江山の歌」

源氏物語 帚木 原文 現代語訳 対比 / think_leisurely

いかに心もとなく思すらむ 現代語訳

「、この大臣の御心ばへの、むつかしく心づきなきも、いかなるついでにかは、。 まことの父大臣も、この殿の思さむところ、憚りたまひて、、なほとてもかくても、見苦しう、、心を悩まし、人にもて騒がるべき身なめり」 と、なかなかこの親尋ねきこえたまひて後は、ことに憚りたまふけしきもなき大臣の君の御もてなしを取り加へつつ、人知れずなむ嘆かしかりける。 思ふことを、まほならずとも、片端にてもうちかすめつべき女親もおはせず、、何ごとをかは、さなむ、かくなむとも聞こえ分きたまはむ。 世の人に似ぬ身のありさまを、うち眺めつつ、夕暮の空のあはれげなるけしきを、端近うて見出だしたまへるさま、いとをかし。 尚侍 ( ないしのかみ )への宮仕えを、どちらの親もが勧めるのだが、どうしたものか、親と頼む人さえ気を許せない状態で、まして宮中に出仕するにつけても、意に反してやむをえないことが生じて、中宮も弘徽殿女御にも、それぞれの機嫌を損じることになったりしたら、宮中にはいられなくなるだろうし、わたしの弱い立場では、どちらの親にも深い縁がある訳でもなく、世間からも軽く見られて、大きく取り沙汰され、どうかして物笑いの種にしようと恨んでいる人も多くいるだろうから、何かにつけ、不愉快なことばかり起こるに違いなく、分別のない年頃でもないので、様々に思い乱れ人知れず嘆くのであった。 「そうかといって、このままでいるのも悪くはないが、源氏の御心ばえは、煩わしいく厭わしいので、どんな機会に、関係を断ち切って、世間の邪推に対して、潔白を示すことができようか。 実の父大臣も、源氏の思惑を憚って、堂々と引き取ってきちんと自分の娘として扱うことはないであろうから、やはりいずれにするにしても、見苦しく、男に思いを掛けられて、心を悩まし、世間にも騒がれることになるのだろう」 と、かえって実の親に晴れて面会してからは、取り分け遠慮する様子もない源氏の態度も加わって、玉鬘は人知れず嘆くのであった。 悩みを、全部ではなくても少しでも相談できる女親もいなくて、どちらの親御にしたって、実に立派で近づきにくい方々ゆえ、何をああだこうだと話したりすることができようか。 世間の人にはあまりないない身のありさまを、思い嘆きながら、夕暮れの空が迫ってくるなかで、廂の間の端近くに座って眺めている姿はなんとも美しい。 2019. 初めより、ものまめやかに心寄せきこえたまへば、もて離れて疎々しきさまには、もてなしたまはざりしならひに、こよなく変はらむもうたてあれば、なほ御簾に几帳添へたる御対面は、人伝てならでありけり。 殿の御消息にて、内裏より仰せ言あるさま、やがてこの君のうけたまはりたまへるなりけり。 」 と思ふに、ただならず、胸ふたがる心地すれど、つれなくすくよかにて、 「人に聞かすまじとはべりつることを聞こえさせむに、いかがはべるべき」 とけしき立てば、近くさぶらふ人も、すこし退きつつ、御几帳のうしろなどにそばみあへり。 玉鬘は、薄い鈍色の衣を、人懐かしい風に質素にまとって、いつもと違う色合いにも、容貌はじつにはなやかに引き立っていて、御前に仕える女房たちは、微笑んで見ているのだが、夕霧の宰相中将が、同じ色の、少し濃い色の直衣姿で 纓 ( えい )を巻いた姿で、なまめかしく清らかに、お見えになった。 初めから、率直に好意を寄せていたので、他人行儀な扱いをしてなかったのだが、今さら実の姉弟でなかったからと言って、急に態度を変えるのも変なので、御簾に几帳を添えた対面には、取次ぎの女房はいなかった。 源氏の文使いで、内裏からの仰せがあって、それを伝えに夕霧が遣わされたのだった。 文の返事は、おおらかで感じの良い様子で申し上げるので、品があって心引かれる心地がするが、あの野分の朝に垣間見た顔が、心にかかって忘れられず、親子で嫌な関係にあると思ったが、親子でないと明らかになった後では、恋心がつのって、 「この宮仕えがあっても、おそらくあきらめないであろう。 あのようにすばらしい夫人方との間にあって、色恋沙汰の面倒なことが必ず起きるであろう」 と思うと、気が気でなく心配で胸がつまるが、知らぬ風でさり気なく、 「人に聞かれないようにしなさいと言われましたので、どうしましょう」 と仔細ありげに言うので、近くにいる女房たちも、少し退いて、几帳の後で横を向くのだった。 2019. 主上の御けしきのただならぬ筋を、さる御心したまへ、などやうの筋なり。 いらへたまはむ言もなくて、ただうち嘆きたまへるほど、忍びやかに、うつくしくいとなつかしきに、なほえ忍ぶまじく、 「御服も、この月には脱がせたまふべきを、日ついでなむ吉ろしからざりける。 十三日に、河原へ出でさせたまふべきよしのたまはせつ。 なにがしも御供にさぶらふべくなむ思ひたまふる」 と聞こえたまへば、 「たぐひたまはむもことことしきやうにやはべらむ。 忍びやかにてこそよくはべらめ」 とのたまふ。 この御服なんどの詳しきさまを、人にあまねく知らせじとおもむけたまへるけしき、いと労あり。 中将も、 「。 忍びがたく思ひたまへらるる形見なれば、脱ぎ捨てはべらむことも、いともの憂くはべるものを。。 この御あらはし衣の色なくは、えこそ思ひたまへ分くまじかりけれ」 とのたまへば、 「、ましてともかくも思ひたまへたどられはべらねど、かかる色こそ、あやしくものあはれなるわざにはべりけれ」 とて、例よりもしめりたる御けしき、いとらうたげにをかし。 夕霧は、とっさに作り話をつぎつぎと作って、仔細に申し上げる。 帝のご執心がただならぬので、ご用心なさいなどとかである。 返事のしようもなく、玉鬘はただ嘆いているのだが、ひっそりとして愛らしくたいそう女らしいので、我慢できずに、 「喪服もこの月には脱ぐはずでしたが、陰陽士の占いで日が悪かったのです。 十三日に賀茂の河原に出ると仰せになっております。 わたしもお供に参ずるべく思っております」 と言えば、 「皆がお供するのは、大げさになりましょう。 目立たぬようにするのが良いのではありませんか」 と言う。 玉鬘が喪に服している事情を、世間に知られないように配慮しているのは、大そう行き届いている。 中将も、 「世間に知られまいと、わたしにまで用心するのは心外です。 堪え難く思われます大宮の形見の喪服のので、脱ぐのもつらいことでしょう。 それにしても、どんなご縁があってここにご一緒されているのか、腑に落ちません。 この喪服がなければ、大宮の孫とは分からないでしょう」 と言うと、 「何の分別もないわたしなどには、何があったのか想像もつきませんが、このような喪服の色こそ妙にしみじみとした気持ちになります」 とて、いつもよりしんみりした様子は、可愛らしく風情があった。 2019. 「」 「」とかや、、見知らぬさまに、やをら引き入りて、 「 かやうにて聞こゆるより、深きゆゑはいかが」 とのたまへば、すこしうち笑ひて、 「浅きも深きも、思し分く方ははべりなむと思ひたまふる。 、えしづめはべらぬ心のうちを、いかでかしろしめさるべき。 、いみじく籠めはべるを、。 頭中将のけしきは御覧じ知りきや。。 身にてこそ、いとをこがましく、かつは思ひたまへ知られけれ。 なかなか、かの君は思ひさまして、つひに、御あたり離るまじき頼みに、思ひ慰めたるけしきなど見はべるも、いとうらやましくねたきに、あはれとだに思しおけよ」 など、こまかに聞こえ知らせたまふこと多かれど、かたはらいたければ書かぬなり。 、やうやう引き入りつつ、むつかしと思したれば、 「心憂き御けしきかな。 過ちすまじき心のほどは、おのづから御覧じ知らるるやうもはべらむものを」 とて、かかるついでに、今すこし漏らさまほしけれど、 「あやしくなやましくなむ」 とて、入り果てたまひぬれば、いといたくうち嘆きて立ちたまひぬ。 このついでにと思いついたのだろう、夕霧が美しく咲いた藤袴を持って、御簾の端から差し入れて、 「これもご覧になる理由はあるでしょう」 と言って、すぐには手放さず持っていると、真意に気づかず手に取った玉鬘の袖を、夕霧が引いた。 「同じ喪に服してやつれている藤袴です あわれな言葉ひとるもかけてください」、 「思いを寄せる」というのか、玉鬘はとても不愉快で嫌な感じがしたが、そ知らぬふりをして、そっと身を引いて、 「元を尋ねれば遠く離れて血筋は違うので 縁があるというのは口実でしょう こう親しく話をしているより深い縁はあるでしょうか」 と言えば、夕霧は、 「縁が浅いか深いか、お分かりのことと思います。 本当は、恐れ多い宮仕えのことを知りながら、静められない自分の心のうちを、どうしてして分かっていただけましょうか。 口に出せば、かえって疎まれるのがつらくて、心に秘めていましたが、身を尽くしてもと思い込んでいます。 頭中将の柏木の執心ぶりはご存知でしょう。 他人事だと、思っておりました。 わが身になって、たいそう愚かなことだと思い知った次第です。 かえってかの君は、姉弟と知ってからは、あきらめて、血筋は切れることはないのだと、自ら慰めているのを見てもうらやましく思っいる、自分をあわれんでください」 など細々とたくさん言っていたが、どうかと思われるのでくだくだしくは書きません。 玉鬘は、奥へ引っ込みながら、厄介なことになった思いながら、 「冷たいなさりようですね。 過ちをしそうにないわたしのことは、すでにご存知でしょうが」 と言って、このついでにもう少し言いたかったけれど、 「何だか気分が悪いので」 と言って、引っ込んでしまったので、夕霧はひどく嘆きながら立った。 2019. 「この宮仕へを、しぶげにこそ思ひたまへれ。 宮などの、練じたまへる人にて、いと心深きあはれを尽くし、言ひ悩ましたまふになむ、心やしみたまふらむと思ふになむ、心苦しき。 されど、大原野の行幸に、主上を見たてまつりたまひては、いとめでたくおはしけり、と思ひたまへりき。 若き人は、ほのかにも見たてまつりて、えしも宮仕への筋もて離れじ。 さ思ひてなむ、このこともかくものせし」 などのたまへば、 「。 中宮、かく並びなき筋にておはしまし、また、弘徽殿、やむごとなく、おぼえことにてものしたまへば、いみじき御思ひありとも、立ち並びたまふこと、かたくこそはべらめ。 宮は、いとねむごろに思したなるを、、 、 、いといとほしくなむ聞きたまふる」 と、おとなおとなしく申したまふ。 「いっそのこと、言わなければよかった」と夕霧は口惜しかったが、もっと身にしみて恋しく思うあの御方を、この程度の物越しで、「少しでも声だけでも何かの折に聞いてみたい」と切に思いつつ、源氏の御前に参じて、出てきた源氏に返事を報告するのだった。 「この宮仕えは乗り気でないのだ。 蛍兵部卿などは、女の扱いになれていて、深く情けの限りをつくして、口説いたであろうから、すっかり心にしみたのだろうか、気の毒だ。 しかし、大原野の行幸で、帝を見ているので、実に美しいと感動したはずだと、思っている。 若い女なら帝をちょっとでも見れば、宮仕えが嫌だとは思うまい。 そう思って、この度の宮仕えを薦めたのだ」 などと仰せになれば、 「それにしても、玉鬘のお人柄は、どちらにお似合いでしょうか。 中宮は並ぶ者なき地位にいらっしゃるし、また、弘徽殿の女御にしても家柄もよく世の評判もいいので、いかに帝の思いが強くても、肩を並べるのは難しいでしょう。 宮は大そう熱心に思っているので、格別に女御としての宮仕えでないにしても、自分の気持ちに違うので不快な思いするでしょうし、仲の良い兄弟なので、困ったことだと存じられます」 と大人びたことを言うのだった。 2019. わが心ひとつなる人の上にもあらぬを、大将さへ、我をこそ恨むなれ。 すべて、かかることの心苦しさを見過ぐさで、あやなき人の恨み負ふ、かへりては軽々しきわざなりけり。 かの母君の、あはれに言ひおきしことの忘れざりしかば、心細き山里になど聞きしを、愁へしに、いとほしくて、かく渡しはじめたるなり。 ここにかくものめかすとて、かの大臣も人めかいたまふなめり」 と、つきづきしくのたまひなす。 「人柄は、宮の御人にていとよかるべし。 今めかしく、いとなまめきたるさまして、さすがにかしこく、過ちすまじくなどして、あはひはめやすからむ。 さてまた、宮仕へにも、いとよく足らひたらむかし。 容貌 ( かたち )よく、らうらうじきものの、公事などにもおぼめかしからず、はかばかしくて、主上の常に願はせたまふ御心には、違ふまじ」 、 「年ごろかくて育みきこえたまひける御心ざしを、ひがざまにこそ人は申すなれ。 かの大臣も、さやうになむおもむけて、大将の、あなたざまのたよりにけしきばみたりけるにも、応へける」 と聞こえたまへば、うち笑ひて、 「かたがたいと似げなきことかな。 なほ、宮仕へをも、御心許して、かくなむと思されむさまにぞ従ふべき。 、ついでを違へて、おのが心にまかせむことは、あるまじきことなり」 とのたまふ。 「むつかしいもんだね。 わたしの一存でどうなるものでもないのに、髯黒の大将さえわたしを恨んでいる。 何ごとにつけこうした気の毒な境遇を見過ごせないので、わけもなく恨まれ、かえって軽率だった。 あの母君の、あわれに言い残したことが忘れられず、寂しい山里と聞いていましたが、あの内大臣には、申し出ても聞いてもらえず、困っていたので不憫に思い、引き取ったのです。 ここで姫君扱いするので、あの大臣もならったのでしょう」 とて、源氏はまことしやかに仰せになった。 「玉鬘の人柄は、宮の北の方としてふさわしいだろう。 今風で、優雅なところがあり、それでいて賢く、間違いをしないだろうし、宮とはうまくゆくだろう。 その上、宮仕えにしても、十分やる力量はあるでしょう。 容貌 ( かたち )よく、才気があり、公の儀式などにも暗くはなく、てきぱきしているので、帝が普段から望んでいる御心に叶うだろう」 と仰せになる源氏の真意が知りたかったので、 「何年もこうして育てた心ざしを、世間の人は 枉 ( ま )げて言うのです。 あの大臣も、そのような意を含んで、髯黒の大将があちらのつてを通じて申し込んだときも、そのように返事をしてます」 と夕霧が言うと、源氏は微笑んで、 「それもこれも見当違いですね。 なお、宮仕えのことも、内大臣の許しをえて、大臣がこうしようと思う様に、従うのがよろしい。 女には三従の義があるが、順序を違えて、わたしの意見に従うなど、あってはならないことです」 と仰せになるのだった。 2019. いたり深き御心ならひならむかし。 今おのづから、いづ方につけても、あらはなることありなむ。 」 と笑ひたまふ。 御けしきはけざやかなれど、なほ、疑ひは置かる。 大臣も、 「さりや。 かく人の推し量る、、いと口惜しくねぢけたらまし。 かの大臣に、いかで、かく心清きさまを知らせたてまつらむ」 と思すにぞ、「げに、宮仕への筋にて、けざやかなるまじく紛れたるおぼえを、かしこくも思ひ寄りたまひけるかな」と、むくつけく思さる。 かくて御服など脱ぎたまひて、 「月立たば、なほ参りたまはむこと 忌 ( いみ )あるべし。 十月ばかりに」 と思しのたまふを、内裏にも心もとなく聞こし召し、、誰も誰も、いと口惜しくて、この御参りの先にと、心寄せのよすがよすがに責めわびたまへど、 「吉野の滝を堰せかむよりも難きことなれば、いとわりなし」 と、おのおの応ふ。 中将も、なかなかなることをうち出でて、「いかに思すらむ」と苦しきままに、駆けりありきて、いとねむごろに、おほかたの御後見を思ひあつかひたるさまにて、追従しありきたまふ。 たはやすく、軽らかにうち出でては聞こえかかりたまはず、めやすくもてしづめたまへり。 「内大臣は内心では、六条の院には立派なご夫人がたが長年いらっしゃるのに、その人数に入れることをせず、半ば捨てるつもりでわたしに譲って、通りいっぺんの宮仕えをさせて、自分の物にすると考えたのだろう、はなはだうまい頭の良いやり方だと感嘆していたと、ある人がわたしに話してくれました」 と正面きって夕霧が話をすると、源氏は「まったくそう思われても仕方ない」と思い、玉鬘が気の毒になって、 「ずいぶんひねくれて取ったものだね。 何でも裏にまわって考える人だからね。 そのうち皆に分かるようになるだろう。 一方的な考え方だね」 と笑う。 口調はきっぱりしているが、夕霧にはなお疑いが残る。 源氏も、 「そうか。 皆があれこれと想像する、その思惑通りになったら、さぞ口惜しく思うことだろう。 内大臣にどうかしてこの心清い様を知らせたいものだ」 と思うにつけても、「実に、宮仕えということにして、うまく目立たぬように紛れ込ませているなどと、よくも見抜いたものだ」と気味悪く思うのだった。 こうして、喪服を脱いで、 「来月になっても、出仕は慎しむべきでしょう。 十月になれば」 と仰せになるが、帝も待ち遠しいとお思いになり、言い寄ってくる人々は、誰もが口惜しく思い、出仕の前にと仲介の女房を責め立てるが、 「吉野の滝を堰き止めるよりも難しいので、どうしょうもない」 とそれぞれの女房が返事をする。 夕霧も、言わでもがなのことを口に出してしまって、「どう思っているだろう」と苦しい思いのままに、駆け回って、たいそう細々と、何か後見役のようなふりをして、ご機嫌伺いをしていた。 夕霧は、あっさり軽々しく口に出したりはしないで、気持ちを抑えていた。 2019. 頭中将、心を尽くしわびしことは、かき絶えにたるを、「うちつけなりける御心かな」と、人びとはをかしがるに、殿の御使にておはしたり。 なほもて出でず、忍びやかに御消息なども聞こえ交はしたまひければ、月の明かき夜、桂の蔭に隠れてものしたまへり。 見聞き入るべくもあらざりしを、名残なく南の御簾の前に据ゑたてまつる。 みづから聞こえたまはむことはしも、なほつつましければ、宰相の君して応へ聞こえたまふ。 「なにがしらを選びてたてまつりたまへるは、人伝てならぬ御消息にこそはべらめ。 かくもの遠くては、いかが聞こえさすべからむ。 みづからこそ、数にもはべらねど、。 いかにぞや、古代のことなれど、頼もしくぞ思ひたまへける」 とて、。 「げに、年ごろの積もりも取り添へて、聞こえまほしけれど、日ごろあやしく悩ましくはべれば、起き上がりなどもえしはべらでなむ。 かくまでとがめたまふも、なかなか疎々しき心地なむしはべりける」 と、いとまめだちて聞こえ出だしたまへり。 「悩ましく思さるらむ御几帳のもとをば、許させたまふまじくや。 よしよし。 げに、聞こえさするも、心地なかりけり」 とて、大臣の御消息ども忍びやかに聞こえたまふ用意など、人には劣りたまはず、いとめやすし。 実の兄弟たちは、寄って来ず、「宮仕えになったらお世話しよう」と、それぞれ待ち遠しい気持ちだった。 頭中将の柏木は、心底恋いこがれ嘆いていたが、音沙汰もなくなり、「突然変わるのですね」と女房たちはおかしがっていたが、内大臣の使いとして来訪した。 未だに目立たぬように、ひそかに文などをやり取りしていたが、月の明るい夜、桂の陰に隠れて立っていた。 見向きもされなかったのが、すっかり変わって南の御簾の前に招じられた。 玉鬘は、取次ぎなしで話すことは、やはり気が引けるので、宰相の君を通して応えるのだった。 「わたしを使者に立てるのは、じかに申し上げろということです。 こう隔てがありましては、どうして申し上げられましょう。 自分は数ならぬ身ですが、姉弟の絆は切れないたとえもあります。 いかがと思われましょうが、昔風ですが、頼みにしておりましたのに」 とて、少し不愉快な気持ちだった。 「おっしゃるとおり、年頃の積もる話も添えて、お話したいのですが、この日頃なんだか気分がすぐれず、寝込んでおります。 こうして責められるのも、かえって疎まれているのかという気がいたします」 と、玉鬘は生真面目に言うのだった。 「気分がすぐれないので、御簾の中へは入れてもらえないのですか。 いやいや、こう申し上げるのも気が利かぬことでした」 とて、内大臣の伝言をひそかに申し上げる態度など、さすがに誰にも負けない、申し分ないものだった。 2019. 何ごとも人目に憚りて、え参り来ず、聞こえぬことをなむ、なかなかいぶせく思したる」 など、語りきこえたまふついでに、 「。 いづ方につけても、あはれをば御覧じ過ぐすべくやはありけると、いよいよ恨めしさも添ひはべるかな。 まづは、今宵などの御もてなしよ。 北面だつ方に召し入れて、君達こそめざましくも思し召さめ、下仕へなどやうの人びととだに、うち語らはばや。 またかかるやうはあらじかし。 さまざまにめづらしき世なりかし」 と、うち傾きつつ、恨み続けたるもをかしければ、かくなむと聞こゆ。 「げに、人聞きを、うちつけなるやうにやと憚りはべるほどに、」 と、ただすくよかに聞こえなしたまふに、まばゆくて、よろづおしこめたり。 「 よ」 と恨むるも、人やりならず。 「」 「いづ方のゆゑとなむ、え思し分かざめりし。 何ごとも、わりなきまで、おほかたの世を憚らせたまふめれば、え聞こえさせたまはぬになむ。 おのづからかくのみもはべらじ」 と聞こゆるも、さることなれば、 「よし、長居しはべらむも、すさまじきほどなり。 」 とて、立ちたまふ。 月隈なくさし上がりて、空のけしきも艶なるに、いとあてやかにきよげなる容貌して、御直衣の姿、好ましくはなやかにて、いとをかし。 宰相中将のけはひありさまには、え並びたまはねど、、「いかでかかる御仲らひなりけむ」と、若き人びとは、例の、さるまじきことをも取り立ててめであへり。 「参内の仔細は、詳しく聞いておりませんが、 内々に相談してご相談されのがよろしいでしょう。 何ごとも人目を憚って、来訪できず話もできないのが気になっております」 など、内大臣の伝言を伝えるついでに、 「いやはや、恥ずかしい文も、もう差し上げようもない。 どちらであっても、わたしの真心を見過ごすなど、なんとも恨めしいことですね。 まずは今宵のもてなしですね。 他人行儀な南面ではなく、非公式な北面から招じて、宰相の君は嫌っておられるにしても、下仕えなどの人びとに、親しくお話したかった。 こんな扱いはないでしょう。 それぞれに珍しい間柄ですね」 と不審に思いながら、恨んでいるのもおもしろく、宰相の君はこのように玉鬘に報告する。 「まことに、姉弟と知って急に態度を変えるのも、外聞が悪いので、長年胸のうちに納めていたものを、晴らすことができないのも、かえってつらうございます」 と率直に言ったので、柏木は気恥ずかしくなり何も言えなかった。 「実の兄妹とは知らずに 成らぬ恋の道に踏み込んでしまった よ」 と恨んでも、誰のせいでもない。 「本当のことを知らずに迷い込んだのですね 妙なお手紙と拝見していました」 「どういうお立場のものなのか、分からなかったのでしょう。 何ごとにしても、たいへん世間体を気にする方なので、ご返事をさし上げなかったのでしょう。 まさかこのままではございますまい」 と宰相の君が申し上げると、そういうことなら、 「いや、長居をしすぎたようです。 少しずつお世話の労が積み重なってから、恨み言も申しましょう」 とて立ち上がった。 月が隈なく照って、空の様子もまことに風情があり、柏木は大そう気品があって美しい容貌で、直衣の姿も好ましくはなやかで、趣があった。 夕霧の気配には、とても及ばないが、柏木もこれほど美しいのは、「どうしてこのような一族なのであろう」と若い女房たちは、例によって、並のことでも取り立ててほめるのであった。 2019. 人柄もいとよく、朝廷の御後見となるべかめる下形なるを、「などかはあらむ」と思しながら、「かの大臣のかくしたまへることを、いかがは聞こえ返すべからむ。 」と、心得たまへる筋さへあれば、任せきこえたまへり。 この大将は、。 大臣たちをおきたてまつりて、さしつぎの御おぼえ、いとやむごとなき君なり。 年三十二三のほどにものしたまふ。 北の方は、紫の上の御姉ぞかし。。 年のほど三つ四つがこのかみは、ことなるかたはにもあらぬを、人柄やいかがおはしけむ、「嫗」とつけて心にも入れず、いかで背きなむと思へり。 その筋により、六条の大臣は、大将の御ことは、「似げなくいとほしからむ」と思したるなめり。 色めかしくうち乱れたるところなきさまながら、いみじくぞ心を尽くしありきたまひける。 「かの大臣も、もて離れても思したらざなり。 女は、宮仕へをもの憂げに思いたなり」と、うちうちのけしきも、さる詳しきたよりあれば、漏り聞きて、 「ただ大殿の御おもむけの異なるにこそはあなれ。 まことの親の御心だに違はずは」 と、この弁の御許にも責ためたまふ。 髯黒の大将は近衛府の長官で、柏木の中将はその次官であってみば、常に呼び寄せて、親しく話をし、内大臣にも伝えさせた。 人柄もよく、朝廷の後見となる予定の人なので、「何の難があろう」と内大臣は思うのであるが、「かの大臣がこうときめたことを、どうして反対できようか。 それだけの理由があるのだ」と心得ているので、源氏に任せているのだった。 この髯黒の大将は、春宮の女御の兄妹であった。 二人の大臣を措いて、その次ぎに帝の信任が厚いお方である。 年の頃三十二三であった。 北の方は、紫の上の異母姉であった。 式部卿の宮の長女であった。 三つ四つ年上であるのは、大した欠点でもないが、人柄がどうだったのだろう、「あばあさん」と仇名をつけて、大事にせず、なんとか別れようとしていた。 その関係から源氏は、髯黒の大将は、「相応しくないし困ったことになる」と思っていた。 色恋にうつつを抜かすような方ではなかったが、まことに熱心に奔走していたのだった。 「あの内大臣も、まったく問題外と思っておられない。 女は宮仕えに気は進まないと思っている」と、内幕の事情に詳しい 伝 ( つて )があるので、聞いていて、 「ただ、源氏の大臣の意向に異なっているだけなだろう。 まことの親の心に違わなければ」 と、お付きの弁を急かせるのだった。 2019. 初霜むすぼほれ、艶なる朝に、例の、とりどりなる、引きそばみつつ持て参る御文どもを、見たまふこともなくて、読みきこゆるばかりを聞きたまふ。 大将殿のには、 「、 」 「月たたば」とある定めを、いとよく聞きたまふなめり。 兵部卿宮は、 「、 思しだに知らば、慰む方もありぬべくなむ」 とて、いとかしけたる下折れの霜も落とさず持て参れる御使さへぞ、うちあひたるや。 親しく参りなどしたまふ君なれば、おのづからいとよくものの案内も聞きて、いみじくぞ思ひわびける。 いと多く怨み続けて、 「」 紙の色、墨つき、しめたる匂ひも、さまざまなるを、人びとも皆、 「思し絶えぬべかめるこそ、」 など言ふ。 宮の御返りをぞ、いかが思すらむ、ただいささかにて、 「」 とほのかなるを、いとめづらしと見たまふに、みづからはあはれを知りぬべき御けしきにかけたまひつれば、つゆばかりなれど、いとうれしかりけり。 かやうに何となけれど、さまざまなる人びとの、御わびごとも多かり。 女の御心ばへは、この君をなむ本にすべきと、大臣たち定めきこえたまひけりとや。 九月になった。 初霜がおりて、趣きある朝、例のそれぞれの取次ぎの女房たちが、わきに隠して持って来る文を、玉鬘は見ることはなく、女房たちが読むのを聞いている。 髯黒の大将の文には、 「頼みにしていた月も、過ぎてゆく空の気色に、気はそぞろで 誰だって婚姻を忌む月を嫌がるのに わたしは命がけで九月にかけて生きています」 「月が改まったら」との予定を、よく知っているのだ。 兵部卿の宮は、 「言っても仕方がないので、言い様がありませんが。 帝のご寵愛を得ても分け入った玉笹の 下葉の霜のようなわたしを忘れないでください 分かっていただけたら、慰めようもあるでしょう」 と言って、ひどくしおれて下が折れた枝に露を落とさず持ってきた使いも、相応しい。 式部卿宮の子息の左兵衛督は、紫の上の異母兄弟であった。 親しく邸に出入りしていたので、邸の事情もよく知っていて、たいそう心を痛めていた。 恨み言を長々書き綴って、 「忘れようとしていますがそれが悲しく いったいどうしたものでしょうか」 紙の色、墨つき、含めた匂いも、されぞれに良く、女房たちも皆、 「こんな方があきらめてしまったら、寂しくなりますね」 など言うのだった。 兵部卿の宮へ返事は、どう思っているのか、少し書いて、 「自分から望んで光に向かう葵でも 朝露を自分で消したりしますでしょうか」 と薄墨でさらりと書いたのを、趣きあると見るが、玉鬘自身は宮の愛情を感じているような詠みぶりなので、ほんの一言の文だが宮は嬉しかった。 このように、特にどうということはないが、様々の人の恋文が多かったのである。 女の心ばえは、この君を手本とするのがよい、とそれぞれの大臣は判定なさったとか。 2019.

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「十訓抄/大江山の歌」

いかに心もとなく思すらむ 現代語訳

いとど、かかる好きごとどもを、末の世にも聞き伝へて、軽びたる名をや流さむと、忍びたまひける隠ろへごとをさへ、語り伝へけむ人のもの言ひさがなさよ。 そのうえさらに、このような好色な事々を、後の世に言い伝えて、源氏の君の軽薄な名を流布しようと、内緒になさっている隠し事をさえ、語り伝えたとかいう、人の口の悪いことよ。 説明 物言ひさがなし は、口が悪い の意。 さるは、いといたく世を憚り、まめだちたまひけるほど、なよびかにをかしきことはなくて、交野少将には笑はれたまひけむかし。 そうはいっても、 光源氏が とてもひどく世を憚り、まじめに振る舞われていた頃、色っぽい趣のことはなくて、交野少将はきっとお笑いになるでしょうね。 説明 まめだつ 実立つ は、まじめに振る舞うの意。 なよびかなり は、しなやか、もの柔らか、色っぽい の意。 説明 交野少将は、交野少将物語で知られる、色好みで文才に長けた美男子。 光源氏が まだ近衛中将などでいらした時は、内裏にのみちゃんとごお仕えなさって、 葵の上のいる 左大臣家にはとぎれとぎれに退出なさいます。 説明 さぶらいよくす は、十分にさぶらう、ちゃんと参上してお仕えする の意。 忍ぶの乱れやと、疑ひきこゆることもありしかど、さしもあだめき目馴れたるうちつけの好き好きしさなどは好ましからぬ御本性にて、まれには、あながちに引き違へ心尽くしなることを、御心に思しとどむる癖なむ、あやにくにて、さるまじき御振る舞ひもうち混じりける。 左大臣家では 「人目を忍ぶ恋の乱れか」と疑い申し上げることもありましたが、 光源氏は そんなに浮ついて、よくみられる出来心などは、お好きでないのが御本性なので、まれには、強いて 普段の心を すっかり変えて、あれこれと悩む恋を御心に思いつめられる癖が、あいにくとおありで、そうあるべきではない御振る舞いも、時には混じることもあったのでした。 説明 徒 あだ めく は、不誠実にみえる、浮ついてみえる の意。 打ち付けなり は、突然だ の意。 すきずきし は、異性や物事に関心をよせ、深く愛着する の意。 打ち付けの好き好きしさ は、突然の好色 の意なので、出来心 と訳しました。 強 あなが ちなり は、強引な、引き違う は、すっかり変える の意。 心尽くし は、さまざまに物を思い、あれこれ悩むこと、心尽くしなること は、あれこれ悩む恋 の意。 長雨晴れ間なきころ、内裏の御物忌 ものいみ さし続きて、いとど長居さぶらひたまふを、大殿にはおぼつかなく恨めしく思したれど、よろづの御よそひ何くれとめづらしきさまに調じ出でたまひつつ、御息子の君たちただこの御宿直所の宮仕へを勤めたまふ。 長雨が晴れ間なく続く頃、宮中の物忌みがさし続いて、 光源氏が内裏に とても長くお仕えなさるのを、大殿[左大臣家の人々]におかれては、不安を感じて恨めしくお思いでしたが、 光源氏の 御装束の万端を何かとご立派なように調達し出されつつ、 左大臣の 御子息の若君たちは、 光源氏の 御宿直所での宮仕えをお勤めです 帝への宮仕えではなく。 説明 光源氏は、桐壺を、御宿直所としていました。 宮腹 みやばら の中将は、なかに親しく馴れきこえたまひて、遊び戯れをも人よりは心安く、なれなれしく振る舞ひたり。 宮腹の頭中将は、 左大臣の御子息たちの なかでも 光源氏に 親しくおなじみ申し上げて、遊び事や戯れ事も、ほかの人々よりは気楽で、 光源氏に なれなれしく振舞っていました。 説明 宮腹の中将 は、皇女から生まれた中将 の意で、桐壺帝の妹を妻とした左大臣の長男で、通常、頭中将とよばれています。 桐壺の帖で、蔵人の少将とあった人物で、それから四、五年たって、頭中将に昇進しています。 右大臣のいたはりかしづきたまふ住み処は、この君もいともの憂くして、好きがましきあだ人なり。 右大臣がいたわり大切に育てている 四の君の 住まいには、頭中将は、余り気がすすまず、女好きがましい浮気人です。 説明 頭中将は、右大臣の四の君を妻としています。 里にても、わが方 かた のしつらひまばゆくして、君の出で入りしたまふにうち連れきこえたまひつつ、夜昼、学問をも遊びをももろともにして、をさをさ立ちおくれず、いづくにてもまつはれきこえたまふほどに、おのづからかしこまりもえおかず、心のうちに思ふことをも隠しあへずなむ、睦 むつ れきこえたまひける。 頭中将は お里にても、自分の部屋の飾りつけをまばゆいほど立派にして、光源氏が 婿君として左大臣亭に 出入りなさるときにご一緒申し上げつつ、夜も昼も、学問も遊びもご一緒され、 光源氏に ほとんど劣ることもなく、どこでもついてまわっていらっしゃるので、自然とつつしむことができなくなり、心の中に思うことを隠すことができないほど、親しみなついているのでした。 説明 里にても とは、頭中将は、四の君に婿入りしているので、右大臣家に住まいを持っているが、お里の左大臣家にも の意。 つれづれと降り暮らして、しめやかなる宵の雨に、殿上にもをさをさ人少なに、御宿直所も例よりはのどやかなる心地するに、大殿油近くて書どもなど見たまふ。 近き御厨子なる色々の紙なる文どもを引き出でて、中将わりなくゆかしがれば、 「さりぬべき、すこしは見せむ。 かたはなるべきもこそ」 と、許したまはねば、 「そのうちとけてかたはらいたしと思されむこそゆかしけれ。 おしなべたるおほかたのは、数ならねど、程々につけて、書き交はしつつも見はべりなむ。 おのがじし、恨めしき折々、待ち顔ならむ夕暮れなどのこそ、見所はあらめ」 と怨ずれば、やむごとなくせちに隠したまふべきなどは、かやうにおほぞうなる御厨子などにうち置き散らしたまふべくもあらず、深くとり置きたまふべかめれば、二の町の心安きなるべし。 片端づつ見るに、「かくさまざまなる物どもこそはべりけれ」とて、心あてに「それか、かれか」など問ふなかに、言ひ当つるもあり、もて離れたることをも思ひ寄せて疑ふも、をかしと思せど、言少なにてとかく紛らはしつつ、とり隠したまひつ。 「そこにこそ多く集へたまふらめ。 すこし見ばや。 さてなむ、この厨子も心よく開くべき」とのたまへば、 「御覧じ所あらむこそ、難くはべらめ」など聞こえたまふついでに、 「女の、これはしもと難つくまじきは、難くもあるかなと、やうやうなむ見たまへ知る。 ただうはべばかりの情けに、手走り書き、をりふしの答へ心得て、うちしなどばかりは、随分によろしきも多かりと見たまふれど、そもまことにその方を取り出でむ選びにかならず漏るまじきは、いと難しや。 わが心得たることばかりを、おのがじし心をやりて、人をば落としめなど、かたはらいたきこと多かり。 親など立ち添ひもてあがめて、生ひ先籠れる窓の内なるほどは、ただ片かどを聞き伝へて、心を動かすこともあめり。 容貌をかしくうちおほどき、若やかにて紛るることなきほど、はかなきすさびをも、人まねに心を入るることもあるに、おのづから一つゆゑづけてし出づることもあり。 見る人、後れたる方をば言ひ隠し、さてありぬべき方をばつくろひて、まねび出だすに、『それ、しかあらじ』と、そらにいかがは推し量り思ひくたさむ。 まことかと見もてゆくに、見劣りせぬやうは、なくなむあるべき」 と、うめきたる気色も恥づかしげなれば、いとなべてはあらねど、われ思し合はすることやあらむ、うちほほ笑みて、 「その、片かどもなき人は、あらむや」とのたまへば、 「いと、さばかりならむあたりには、誰れかはすかされ寄りはべらむ。 取るかたなく口惜しき際と、優なりとおぼゆばかりすぐれたるとは、数等しくこそはべらめ。 人の品高く生まれぬれば、人にもてかしづかれて、隠るること多く、自然にそのけはひこよなかるべし。 中の品になむ、人の心々、おのがじしの立てたるおもむきも見えて、分かるべきことかたがた多かるべき。 下のきざみといふ際になれば、ことに耳たたずかし」 とて、いと隈なげなる気色なるも、ゆかしくて、 「その品々や、いかに。 いづれを三つの品に置きてか分くべき。 元の品高く生まれながら、身は沈み、位みじかくて人げなき。 また直人の上達部などまでなり上り、我は顔にて家の内を飾り、人に劣らじと思へる。 そのけぢめをば、いかが分くべき」 と問ひたまふほどに、左馬頭、藤式部丞、御物忌に籠もらむとて参れり。 世の好き者にて物よく言ひとほれるを、中将待ちとりて、この品々をわきまへ定め争ふ。 いと聞きにくきこと多かり。 「なり上れども、もとよりさるべき筋ならぬは、世人の思へることも、さは言へど、なほことなり。 また、元はやむごとなき筋なれど、世に経るたづき少なく、時世に移ろひて、おぼえ衰へぬれば、心は心としてこと足らず、悪ろびたることども出でくるわざなめれば、とりどりにことわりて、中の品にぞ置くべき。 受領と言ひて、人の国のことにかかづらひ営みて、品定まりたる中にも、またきざみきざみありて、中の品のけしうはあらぬ、選り出でつべきころほひなり。 なまなまの上達部よりも非参議の四位どもの、世のおぼえ口惜しからず、もとの根ざし卑しからぬ、やすらかに身をもてなしふるまひたる、いとかはらかなりや。 家の内に足らぬことなど、はたなかめるままに、省かずまばゆきまでもてかしづける女などの、おとしめがたく生ひ出づるもあまたあるべし。 宮仕へに出で立ちて、思ひかけぬ幸ひとり出づる例ども多かりかし」など言へば、 「すべて、にぎははしきによるべきななり」とて、笑ひたまふを、 「異人の言はむやうに、心得ず仰せらる」と、中将憎む。 「元の品、時世のおぼえうち合ひ、やむごとなきあたりの内々のもてなしけはひ後れたらむは、さらにも言はず、何をしてかく生ひ出でけむと、言ふかひなくおぼゆべし。 うち合ひてすぐれたらむもことわり、これこそはさるべきこととおぼえて、めづらかなることと心も驚くまじ。 なにがしが及ぶべきほどならねば、上が上はうちおきはべりぬ。 さて、世にありと人に知られず、さびしくあばれたらむ葎の門に、思ひの外にらうたげならむ人の閉ぢられたらむこそ、限りなくめづらしくはおぼえめ。 いかで、はたかかりけむと、思ふより違へることなむ、あやしく心とまるわざなる。 父の年老い、ものむつかしげに太りすぎ、兄の顔憎げに、思ひやりことなることなき閨の内に、いといたく思ひあがり、はかなくし出でたることわざも、ゆゑなからず見えたらむ、片かどにても、いかが思ひの外にをかしからざらむ。 すぐれて疵なき方の選びにこそ及ばざらめ、さる方にて捨てがたきものをは」 とて、式部を見やれば、わが妹どものよろしき聞こえあるを思ひてのたまふにや、とや心得らむ、ものも言はず。 「いでや、上の品と思ふにだに難げなる世を」と、君は思すべし。 白き御衣どものなよらかなるに、直衣ばかりをしどけなく着なしたまひて、紐などもうち捨てて、添ひ臥したまへる御火影、いとめでたく、女にて見たてまつらまほし。 この御ためには上が上を選り出でても、なほ飽くまじく見えたまふ。 さまざまの人の上どもを語り合はせつつ、 「おほかたの世につけて見るには咎なきも、わがものとうち頼むべきを選らむに、多かる中にも、えなむ思ひ定むまじかりける。 男の朝廷に仕うまつり、はかばかしき世のかためとなるべきも、まことの器ものとなるべきを取り出ださむには、かたかるべしかし。 されど、賢しとても、一人二人世の中をまつりごちしるべきならねば、上は下に輔けられ、下は上になびきて、こと広きに譲ろふらむ。 狭き家の内の主人とすべき人一人を思ひめぐらすに、足らはで悪しかるべき大事どもなむ、かたがた多かる。 とあればかかり、あふさきるさにて、なのめにさてもありぬべき人の少なきを、好き好きしき心のすさびにて、人のありさまをあまた見合はせむの好みならねど、ひとへに思ひ定むべきよるべとすばかりに、同じくは、わが力入りをし直しひきつくろふべき所なく、心にかなふやうにもやと、選りそめつる人の、定まりがたきなるべし。 かならずしもわが思ふにかなはねど、見そめつる契りばかりを捨てがたく思ひとまる人は、ものまめやかなりと見え、さて、保たるる女のためも、心にくく推し量らるるなり。 されど、何か、世のありさまを見たまへ集むるままに、心に及ばずいとゆかしきこともなしや。 君達の上なき御選びには、まして、いかばかりの人かは足らひたまはむ。 容貌きたなげなく、若やかなるほどの、おのがじしは塵もつかじと身をもてなし、文を書けど、おほどかに言選りをし、墨つきほのかに心もとなく思はせつつ、またさやかにも見てしがなとすべなく待たせ、わづかなる声聞くばかり言ひ寄れど、息の下にひき入れ言少ななるが、いとよくもて隠すなりけり。 なよびかに女しと見れば、あまり情けにひきこめられて、とりなせば、あだめく。 これをはじめの難とすべし。 事が中に、なのめなるまじき人の後見の方は、もののあはれ知り過ぐし、はかなきついでの情けあり、をかしきに進める方なくてもよかるべしと見えたるに、また、まめまめしき筋を立てて耳はさみがちに美さうなき家刀自の、ひとへにうちとけたる後見ばかりをして。 朝夕の出で入りにつけても、公私の人のたたずまひ、善き悪しきことの、目にも耳にもとまるありさまを、疎き人に、わざとうちまねばむやは。 近くて見む人の聞きわき思ひ知るべからむに語りも合はせばやと、うちも笑まれ、涙もさしぐみ、もしは、あやなきおほやけ腹立たしく、心ひとつに思ひあまることなど多かるを、何にかは聞かせむと思へば、うちそむかれて、人知れぬ思ひ出で笑ひもせられ、『あはれ』とも、うち独りごたるるに、『何ごとぞ』など、あはつかにさし仰ぎゐたらむは、いかがは口惜しからぬ。 ただひたふるに子めきて柔らかならむ人を、とかくひきつくろひてはなどか見ざらむ。 心もとなくとも、直し所ある心地すべし。 げに、さし向ひて見むほどは、さてもらうたき方に罪ゆるし見るべきを、立ち離れてさるべきことをも言ひやり、をりふしにし出でむわざのあだ事にもまめ事にも、わが心と思ひ得ることなく深きいたりなからむは、いと口惜しく頼もしげなき咎や、なほ苦しからむ。 常はすこしそばそばしく心づきなき人の、をりふしにつけて出でばえするやうもありかし」 など、隈なきもの言ひも、定めかねていたくうち嘆く。 「今は、ただ、品にもよらじ。 容貌をばさらにも言はじ。 いと口惜しくねぢけがましきおぼえだになくは、ただひとへにものまめやかに、静かなる心のおもむきならむよるべをぞ、つひの頼み所には思ひおくべかりける。 あまりのゆゑよし心ばせうち添へたらむをば、よろこびに思ひ、すこし後れたる方あらむをも、あながちに求め加へじ。 うしろやすくのどけき所だに強くは、うはべの情けは、おのづからもてつけつべきわざをや。 艶にもの恥ぢして、恨み言ふべきことをも見知らぬさまに忍びて、上はつれなくみさをづくり、心一つに思ひあまる時は、言はむかたなくすごき言の葉、あはれなる歌を詠みおき、しのばるべき形見をとどめて、深き山里、世離れたる海づらなどにはひ隠れぬるをり。 童にはべりし時、女房などの物語読みしを聞きて、いとあはれに悲しく、心深きことかなと、涙をさへなむ落としはべりし。 今思ふには、いと軽々しく、ことさらびたることなり。 心ざし深からむ男をおきて、見る目の前につらきことありとも、人の心を見知らぬやうに逃げ隠れて、人をまどはし、心を見むとするほどに、長き世のもの思ひになる、いとあぢきなきことなり。 『心深しや』など、ほめたてられて、あはれ進みぬれば、やがて尼になりぬかし。 思ひ立つほどは、いと心澄めるやうにて、世に返り見すべくも思へらず。 『いで、あな悲し。 かくはた思しなりにけるよ』などやうに、あひ知れる人来とぶらひ、ひたすらに憂しとも思ひ離れぬ男、聞きつけて涙落とせば、使ふ人、古御達など、『君の御心は、あはれなりけるものを。 あたら御身を』など言ふ。 みづから額髪をかきさぐりて、あへなく心細ければ、うちひそみぬかし。 忍ぶれど涙こぼれそめぬれば、折々ごとにえ念じえず、悔しきこと多かめるに、仏もなかなか心ぎたなしと、見たまひつべし。 濁りにしめるほどよりも、なま浮かびにては、かへりて悪しき道にも漂ひぬべくぞおぼゆる。 絶えぬ宿世浅からで、尼にもなさで尋ね取りたらむも、やがてあひ添ひて、とあらむ折もかからむきざみをも、見過ぐしたらむ仲こそ、契り深くあはれならめ、我も人も、うしろめたく心おかれじやは。 また、なのめに移ろふ方あらむ人を恨みて、気色ばみ背かむ、はたをこがましかりなむ。 心は移ろふ方ありとも、見そめし心ざしいとほしく思はば、さる方のよすがに思ひてもありぬべきに、さやうならむたぢろきに、絶えぬべきわざなり。 すべて、よろづのことなだらかに、怨ずべきことをば見知れるさまにほのめかし、恨むべからむふしをも憎からずかすめなさば、それにつけて、あはれもまさりぬべし。 多くは、わが心も見る人からをさまりもすべし。 あまりむげにうちゆるべ見放ちたるも、心安くらうたきやうなれど、おのづから軽き方にぞおぼえはべるかし。 繋がぬ舟の浮きたる例も、げにあやなし。 さははべらぬか」 と言へば、中将うなづく。 「さしあたりて、をかしともあはれとも心に入らむ人の、頼もしげなき疑ひあらむこそ、大事なるべけれ。 わが心あやまちなくて見過ぐさば、さし直してもなどか見ざらむとおぼえたれど、それさしもあらじ。 ともかくも、違ふべきふしあらむを、のどやかに見忍ばむよりほかに、ますことあるまじかりけり」 と言ひて、わが妹の姫君は、この定めにかなひたまへりと思へば、君のうちねぶりて言葉まぜたまはぬを、さうざうしく心やましと思ふ。 馬頭、物定めの博士になりて、ひひらきゐたり。 中将は、このことわり聞き果てむと、心入れて、あへしらひゐたまへり。 「よろづのことによそへて思せ。 木の道の匠のよろづの物を心にまかせて作り出だすも、臨時のもてあそび物の、その物と跡も定まらぬは、そばつきさればみたるも、げにかうもしつべかりけりと、時につけつつさまを変へて、今めかしきに目移りてをかしきもあり。 大事として、まことにうるはしき人の調度の飾りとする、定まれるやうある物を難なくし出づることなむ、なほまことの物の上手は、さまことに見え分かれはべる。 また絵所に上手多かれど、墨がきに選ばれて、次々にさらに劣りまさるけぢめ、ふとしも見え分かれず。 かかれど、人の見及ばぬ蓬莱の山、荒海の怒れる魚の姿、唐国のはげしき獣の形、目に見えぬ鬼の顔などの、おどろおどろしく作りたる物は、心にまかせてひときは目驚かして、実には似ざらめど、さてありぬべし。 世の常の山のたたずまひ、水の流れ、目に近き人の家居ありさま、げにと見え、なつかしくやはらいだる形などを静かに描きまぜて、すくよかならぬ山の景色、木深く世離れて畳みなし、け近き籬の内をば、その心しらひおきてなどをなむ、上手はいと勢ひことに、悪ろ者は及ばぬ所多かめる。 手を書きたるにも、深きことはなくて、ここかしこの、点長に走り書き、そこはかとなく気色ばめるは、うち見るにかどかどしく気色だちたれど、なほまことの筋をこまやかに書き得たるは、うはべの筆消えて見ゆれど、今ひとたびとり並べて見れば、なほ実になむよりける。 はかなきことだにかくこそはべれ。 まして人の心の、時にあたりて気色ばめらむ見る目の情けをば、え頼むまじく思うたまへ得てはべる。 そのはじめのこと、好き好きしくとも申しはべらむ」 とて、近くゐ寄れば、君も目覚ましたまふ。 中将いみじく信じて、頬杖をつきて向かひゐたまへり。 法の師の世のことわり説き聞かせむ所の心地するも、かつはをかしけれど、かかるついでは、おのおの睦言もえ忍びとどめずなむありける。 「はやう、まだいと下臈にはべりし時、あはれと思ふ人はべりき。 聞こえさせつるやうに、容貌などいとまほにもはべらざりしかば、若きほどの好き心には、この人をとまりにとも思ひとどめはべらず、よるべとは思ひながら、さうざうしくて、とかく紛れはべりしを、もの怨じをいたくしはべりしかば、心づきなく、いとかからで、おいらかならましかばと思ひつつ、あまりいと許しなく疑ひはべりしもうるさくて、かく数ならぬ身を見も放たで、などかくしも思ふらむと、心苦しき折々もはべりて、自然に心をさめらるるやうになむはべりし。 この女のあるやう、もとより思ひいたらざりけることにも、いかでこの人のためにはと、なき手を出だし、後れたる筋の心をも、なほ口惜しくは見えじと思ひはげみつつ、とにかくにつけて、ものまめやかに後見、つゆにても心に違ふことはなくもがなと思へりしほどに、進める方と思ひしかど、とかくになびきてなよびゆき、醜き容貌をも、この人に見や疎まれむと、わりなく思ひつくろひ、疎き人に見えば、面伏せにや思はむと、憚り恥ぢて、みさをにもてつけて見馴るるままに、心もけしうはあらずはべりしかど、ただこの憎き方一つなむ、心をさめずはべりし。 そのかみ思ひはべりしやう、かうあながちに従ひ怖ぢたる人なめり、いかで懲るばかりのわざして、おどして、この方もすこしよろしくもなり、さがなさもやめむと思ひて、まことに憂しなども思ひて絶えぬべき気色ならば、かばかり我に従ふ心ならば思ひ懲りなむと思うたまへ得て、ことさらに情けなくつれなきさまを見せて、例の腹立ち怨ずるに、 『かくおぞましくは、いみじき契り深くとも、絶えてまた見じ。 限りと思はば、かくわりなきもの疑ひはせよ。 行く先長く見えむと思はば、つらきことありとも、念じてなのめに思ひなりて、かかる心だに失せなば、いとあはれとなむ思ふべき。 人並々にもなり、すこしおとなびむに添へて、また並ぶ人なくあるべき』やうなど、かしこく教へたつるかなと思ひたまへて、われたけく言ひそしはべるに、すこしうち笑ひて、 『よろづに見立てなく、ものげなきほどを見過ぐして、人数なる世もやと待つ方は、いとのどかに思ひなされて、心やましくもあらず。 つらき心を忍びて、思ひ直らむ折を見つけむと、年月を重ねむあいな頼みは、いと苦しくなむあるべければ、かたみに背きぬべききざみになむある』 とねたげに言ふに、腹立たしくなりて、憎げなることどもを言ひはげましはべるに、女もえをさめぬ筋にて、指ひとつを引き寄せて喰ひてはべりしを、おどろおどろしくかこちて、 『かかる疵さへつきぬれば、いよいよ交じらひをすべきにもあらず。 辱めたまふめる官位、いとどしく何につけてかは人めかむ。 世を背きぬべき身なめり』など言ひ脅して、『さらば、今日こそは限りなめれ』と、この指をかがめてまかでぬ。 『手を折りてあひ見しことを数ふれば これひとつやは君が憂きふし えうらみじ』 など言ひはべれば、さすがにうち泣きて、 『憂きふしを心ひとつに数へきて こや君が手を別るべきをり』 など、言ひしろひはべりしかど、まことには変るべきこととも思ひたまへずながら、日ごろ経るまで消息も遣はさず、あくがれまかり歩くに、臨時の祭の調楽に、夜更けていみじう霙降る夜、これかれまかりあかるる所にて、思ひめぐらせば、なほ家路と思はむ方はまたなかりけり。 内裏わたりの旅寝すさまじかるべく、気色ばめるあたりはそぞろ寒くや、と思ひたまへられしかば、いかが思へると、気色も見がてら、雪をうち払ひつつ、なま人悪ろく爪喰はるれど、さりとも今宵日ごろの恨みは解けなむ、と思うたまへしに、火ほのかに壁に背け、萎えたる衣どもの厚肥えたる、大いなる籠にうち掛けて、引き上ぐべきものの帷子などうち上げて、今宵ばかりやと、待ちけるさまなり。 さればよと、心おごりするに、正身はなし。 さるべき女房どもばかりとまりて、『親の家に、この夜さりなむ渡りぬる』と答へはべり。 艶なる歌も詠まず、気色ばめる消息もせで、いとひたや籠もりに情けなかりしかば、あへなき心地して、さがなく許しなかりしも、我を疎みねと思ふ方の心やありけむと、さしも見たまへざりしことなれど、心やましきままに思ひはべりしに、着るべき物、常よりも心とどめたる色あひ、しざまいとあらまほしくて、さすがにわが見捨ててむ後をさへなむ、思ひやり後見たりし。 さりとも、絶えて思ひ放つやうはあらじと思うたまへて、とかく言ひはべりしを、背きもせずと、尋ねまどはさむとも隠れ忍びず、かかやかしからず答へつつ、ただ、『ありしながらは、えなむ見過ぐすまじき。 あらためてのどかに思ひならばなむ、あひ見るべき』など言ひしを、さりともえ思ひ離れじと思ひたまへしかば、しばし懲らさむの心にて、『しかあらためむ』とも言はず、いたく綱引きて見せしあひだに、いといたく思ひ嘆きて、はかなくなりはべりにしかば、戯れにくくなむおぼえはべりし。 ひとへにうち頼みたらむ方は、さばかりにてありぬべくなむ思ひたまへ出でらるる。 はかなきあだ事をもまことの大事をも、言ひあはせたるにかひなからず、龍田姫と言はむにもつきなからず、織女の手にも劣るまじくその方も具して、うるさくなむはべりし」 とて、いとあはれと思ひ出でたり。 中将、 「その織女の裁ち縫ふ方をのどめて、長き契りにぞあえまし。 げに、その龍田姫の錦には、またしくものあらじ。 はかなき花紅葉といふも、をりふしの色あひつきなく、はかばかしからぬは、露のはえなく消えぬるわざなり。 さあるにより、難き世とは定めかねたるぞや」 と、言ひはやしたまふ。 「さて、また同じころ、まかり通ひし所は、人も立ちまさり心ばせまことにゆゑありと見えぬべく、うち詠み、走り書き、掻い弾く爪音、手つき口つき、みなたどたどしからず、見聞きわたりはべりき。 見る目もこともなくはべりしかば、このさがな者を、うちとけたる方にて、時々隠ろへ見はべりしほどは、こよなく心とまりはべりき。 この人亡せて後、いかがはせむ、あはれながらも過ぎぬるはかひなくて、しばしばまかり馴るるには、すこしまばゆく艶に好ましきことは、目につかぬ所あるに、うち頼むべくは見えず、かれがれにのみ見せはべるほどに、忍びて心交はせる人ぞありけらし。 神無月のころほひ、月おもしろかりし夜、内裏よりまかではべるに、ある上人来あひて、この車にあひ乗りてはべれば、大納言の家にまかり泊まらむとするに、この人言ふやう、『今宵人待つらむ宿なむ、あやしく心苦しき』とて、この女の家はた、避きぬ道なりければ、荒れたる崩れより池の水かげ見えて、月だに宿る住処を過ぎむもさすがにて、下りはべりぬかし。 もとよりさる心を交はせるにやありけむ、この男いたくすずろきて、門近き廊の簀子だつものに尻かけて、とばかり月を見る。 菊いとおもしろく移ろひわたり、風に競へる紅葉の乱れなど、あはれと、げに見えたり。 懐なりける笛取り出でて吹き鳴らし、『蔭もよし』などつづしり謡ふほどに、よく鳴る和琴を、調べととのへたりける、うるはしく掻き合はせたりしほど、けしうはあらずかし。 律の調べは、女のものやはらかに掻き鳴らして、簾の内より聞こえたるも、今めきたる物の声なれば、清く澄める月に折つきなからず。 男いたくめでて、簾のもとに歩み来て、 『庭の紅葉こそ、踏み分けたる跡もなけれ』などねたます。 菊を折りて、 『琴の音も月もえならぬ宿ながら つれなき人をひきやとめける 悪ろかめり』など言ひて、『今ひと声、聞きはやすべき人のある時、手な残いたまひそ』など、いたくあざれかかれば、女、いたう声つくろひて、 『木枯に吹きあはすめる笛の音を ひきとどむべき言の葉ぞなき』 となまめき交はすに、憎くなるをも知らで、また、箏の琴を盤渉調に調べて、今めかしく掻い弾きたる爪音、かどなきにはあらねど、まばゆき心地なむしはべりし。 ただ時々うち語らふ宮仕へ人などの、あくまでさればみ好きたるは、さても見る限りはをかしくもありぬべし。 時々にても、さる所にて忘れぬよすがと思ひたまへむには、頼もしげなくさし過ぐいたりと心おかれて、その夜のことにことつけてこそ、まかり絶えにしか。 この二つのことを思うたまへあはするに、若き時の心にだに、なほさやうにもて出でたることは、いとあやしく頼もしげなくおぼえはべりき。 今より後は、ましてさのみなむ思ひたまへらるべき。 御心のままに、折らば落ちぬべき萩の露、拾はば消えなむと見る玉笹の上の霰などの、艶にあえかなる好き好きしさのみこそ、をかしく思さるらめ、今さりとも、七年あまりがほどに思し知りはべなむ。 なにがしがいやしき諌めにて、好きたわめらむ女に心おかせたまへ。 過ちして、見む人のかたくななる名をも立てつべきものなり」 と戒む。 中将、例のうなづく。 君すこしかた笑みて、さることとは思すべかめり。 「いづ方につけても、人悪ろくはしたなかりける身物語かな」とて、うち笑ひおはさうず。 中将、 「なにがしは、痴者の物語をせむ」とて、「いと忍びて見そめたりし人の、さても見つべかりしけはひなりしかば、ながらふべきものとしも思ひたまへざりしかど、馴れゆくままに、あはれとおぼえしかば、絶え絶え忘れぬものに思ひたまへしを、さばかりになれば、うち頼めるけしきも見えき。 頼むにつけては、恨めしと思ふこともあらむと、心ながらおぼゆるをりをりもはべりしを、見知らぬやうにて、久しきとだえをも、かうたまさかなる人とも思ひたらず、ただ朝夕にもてつけたらむありさまに見えて、心苦しかりしかば、頼めわたることなどもありきかし。 親もなく、いと心細げにて、さらばこの人こそはと、事にふれて思へるさまもらうたげなりき。 かうのどけきにおだしくて、久しくまからざりしころ、この見たまふるわたりより、情けなくうたてあることをなむ、さるたよりありてかすめ言はせたりける、後にこそ聞きはべりしか。 さる憂きことやあらむとも知らず、心には忘れずながら、消息などもせで久しくはべりしに、むげに思ひしをれて心細かりければ、幼き者などもありしに思ひわづらひて、撫子の花を折りておこせたりし」とて涙ぐみたり。 「さて、その文の言葉は」と問ひたまへば、 「いさや、ことなることもなかりきや。 『山がつの垣ほ荒るとも折々に あはれはかけよ撫子の露』 思ひ出でしままにまかりたりしかば、例のうらもなきものから、いと物思ひ顔にて、荒れたる家の露しげきを眺めて、虫の音に競へるけしき、昔物語めきておぼえはべりし。 『咲きまじる色はいづれと分かねども なほ常夏にしくものぞなき』 大和撫子をばさしおきて、まづ『塵をだに』など、親の心をとる。 『うち払ふ袖も露けき常夏に あらし吹きそふ秋も来にけり』 とはかなげに言ひなして、まめまめしく恨みたるさまも見えず。 涙をもらし落としても、いと恥づかしくつつましげに紛らはし隠して、つらきをも思ひ知りけりと見えむは、わりなく苦しきものと思ひたりしかば、心やすくて、またとだえ置きはべりしほどに、跡もなくこそかき消ちて失せにしか。 まだ世にあらば、はかなき世にぞさすらふらむ。 あはれと思ひしほどに、わづらはしげに思ひまとはすけしき見えましかば、かくもあくがらさざらまし。 こよなきとだえおかず、さるものにしなして長く見るやうもはべりなまし。 かの撫子のらうたくはべりしかば、いかで尋ねむと思ひたまふるを、今もえこそ聞きつけはべらね。 これこそのたまへるはかなき例なめれ。 つれなくてつらしと思ひけるも知らで、あはれ絶えざりしも、益なき片思ひなりけり。 今やうやう忘れゆく際に、かれはたえしも思ひ離れず、折々人やりならぬ胸焦がるる夕べもあらむとおぼえはべり。 これなむ、え保つまじく頼もしげなき方なりける。 されば、かのさがな者も、思ひ出である方に忘れがたけれど、さしあたりて見むにはわづらはしくよ、よくせずは、飽きたきこともありなむや。 琴の音すすめけむかどかどしさも、好きたる罪重かるべし。 この心もとなきも、疑ひ添ふべければ、いづれとつひに思ひ定めずなりぬるこそ。 世の中や、ただかくこそ。 とりどりに比べ苦しかるべき。 このさまざまのよき限りをとり具し、難ずべきくさはひまぜぬ人は、いづこにかはあらむ。 吉祥天女を思ひかけむとすれば、法気づき、くすしからむこそ、また、わびしかりぬべけれ」とて、皆笑ひぬ。 「式部がところにぞ、けしきあることはあらむ。 すこしづつ語り申せ」と責めらる。 「下が下の中には、なでふことか、聞こし召しどころはべらむ」 と言へど、頭の君、まめやかに「遅し」と責めたまへば、何事をとり申さむと思ひめぐらすに、 「まだ文章生にはべりし時、かしこき女の例をなむ見たまへし。 かの、馬頭の申したまへるやうに、公事をも言ひあはせ、私ざまの世に住まふべき心おきてを思ひめぐらさむ方もいたり深く、才の際なまなまの博士恥づかしく、すべて口あかすべくなむはべらざりし。 それは、ある博士のもとに学問などしはべるとて、まかり通ひしほどに、主人のむすめども多かりと聞きたまへて、はかなきついでに言ひ寄りてはべりしを、親聞きつけて、盃持て出でて、『わが両つの途歌ふを聴け』となむ、聞こえごちはべりしかど、をさをさうちとけてもまからず、かの親の心を憚りて、さすがにかかづらひはべりしほどに、いとあはれに思ひ後見、寝覚の語らひにも、身の才つき、朝廷に仕うまつるべき道々しきことを教へて、いときよげに消息文にも仮名といふもの書きまぜず、むべむべしく言ひまはしはべるに、おのづからえまかり絶えで、その者を師としてなむ、わづかなる腰折文作ることなど習ひはべりしかば、今にその恩は忘れはべらねど、なつかしき妻子とうち頼まむには、無才の人、なま悪ろならむ振る舞ひなど見えむに、恥づかしくなむ見えはべりし。 まいて君達の御ため、はかばかしくしたたかなる御後見は、何にかせさせたまはむ。 はかなし、口惜し、とかつ見つつも、ただわが心につき、宿世の引く方はべるめれば、男しもなむ、仔細なきものははべめる」 と申せば、残りを言はせむとて、「さてさてをかしかりける女かな」とすかいたまふを、心は得ながら、鼻のわたりをこづきて語りなす。 「さて、いと久しくまからざりしに、もののたよりに立ち寄りてはべれば、常のうちとけゐたる方にははべらで、心やましき物越しにてなむ逢ひてはべる。 ふすぶるにやと、をこがましくも、また、よきふしなりとも思ひたまふるに、このさかし人はた、軽々しきもの怨じすべきにもあらず、世の道理を思ひとりて恨みざりけり。 声もはやりかにて言ふやう、 『月ごろ、風病重きに堪へかねて、極熱の草薬を服して、いと臭きによりなむ、え対面賜はらぬ。 目のあたりならずとも、さるべからむ雑事らは承らむ』 と、いとあはれにむべむべしく言ひはべり。 答へに何とかは。 ただ、『承りぬ』とて、立ち出ではべるに、さうざうしくやおぼえけむ、 『この香失せなむ時に立ち寄りたまへ』と高やかに言ふを、聞き過ぐさむもいとほし、しばしやすらふべきに、はたはべらねば、げにそのにほひさへ、はなやかにたち添へるも術なくて、逃げ目をつかひて、 『ささがにのふるまひしるき夕暮れに ひるま過ぐせといふがあやなさ いかなることつけぞや』 と、言ひも果てず走り出ではべりぬるに、追ひて、 『逢ふことの夜をし隔てぬ仲ならば ひる間も何かまばゆからまし』 さすがに口疾くなどははべりき」 と、しづしづと申せば、君達あさましと思ひて、「嘘言」とて笑ひたまふ。 「いづこのさる女かあるべき。 おいらかに鬼とこそ向かひゐたらめ。 むくつけきこと」 と爪弾きをして、「言はむ方なし」と、式部をあはめ憎みて、 「すこしよろしからむことを申せ」と責めたまへど、 「これよりめづらしきことはさぶらひなむや」とて、をり。 「すべて男も女も悪ろ者は、わづかに知れる方のことを残りなく見せ尽くさむと思へるこそ、いとほしけれ。 三史五経、道々しき方を、明らかに悟り明かさむこそ、愛敬なからめ、などかは、女といはむからに、世にあることの公私につけて、むげに知らずいたらずしもあらむ。 わざと習ひまねばねど、すこしもかどあらむ人の、耳にも目にもとまること、自然に多かるべし。 さるままには、真名を走り書きて、さるまじきどちの女文に、なかば過ぎて書きすすめたる、あなうたて、この人のたをやかならましかばと見えたり。 心地にはさしも思はざらめど、おのづからこはごはしき声に読みなされなどしつつ、ことさらびたり。 上臈の中にも、多かることぞかし。 歌詠むと思へる人の、やがて歌にまつはれ、をかしき古言をも初めより取り込みつつ、すさまじき折々、詠みかけたるこそ、ものしきことなれ。 返しせねば情けなし、えせざらむ人ははしたなからむ。 さるべき節会など、五月の節に急ぎ参る朝、何のあやめも思ひしづめられぬに、えならぬ根を引きかけ、九日の宴に、まづ難き詩の心を思ひめぐらして暇なき折に、菊の露をかこち寄せなどやうの、つきなき営みにあはせ、さならでもおのづから、げに後に思へばをかしくもあはれにもあべかりけることの、その折につきなく、目にとまらぬなどを、推し量らず詠み出でたる、なかなか心後れて見ゆ。 よろづのことに、などかは、さても、とおぼゆる折から、時々、思ひわかぬばかりの心にては、よしばみ情け立たざらむなむ目やすかるべき。 すべて、心に知れらむことをも、知らず顔にもてなし、言はまほしからむことをも、一つ二つのふしは過ぐすべくなむあべかりける」 と言ふにも、君は、人一人の御ありさまを、心の中に思ひつづけたまふ。 「これに足らずまたさし過ぎたることなくものしたまひけるかな」と、ありがたきにも、いとど胸ふたがる。 いづ方により果つともなく、果て果てはあやしきことどもになりて、明かしたまひつ。 からうして今日は日のけしきも直れり。 かくのみ籠もりさぶらひたまふも、大殿の御心いとほしければ、まかでたまへり。 おほかたの気色、人のけはひも、けざやかにけ高く、乱れたるところまじらず、なほ、これこそは、かの、人びとの捨てがたく取り出でしまめ人には頼まれぬべけれ、と思すものから、あまりうるはしき御ありさまの、とけがたく恥づかしげに思ひしづまりたまへるをさうざうしくて、中納言の君、中務などやうの、おしなべたらぬ若人どもに、戯れ言などのたまひつつ、暑さに乱れたまへる御ありさまを、見るかひありと思ひきこえたり。 大臣も渡りたまひて、うちとけたまへれば、御几帳隔てておはしまして、御物語聞こえたまふを、「暑きに」とにがみたまへば、人びと笑ふ。 「あなかま」とて、脇息に寄りおはす。 いとやすらかなる御振る舞ひなりや。 暗くなるほどに、 「今宵、中神、内裏よりは塞がりてはべりけり」と聞こゆ。 「さかし、例は忌みたまふ方なりけり」 「二条の院にも同じ筋にて、いづくにか違へむ。 いと悩ましきに」 とて大殿籠もれり。 「いと悪しきことなり」と、これかれ聞こゆ。 「紀伊守にて親しく仕うまつる人の、中川のわたりなる家なむ、このころ水せき入れて、涼しき蔭にはべる」と聞こゆ。 「いとよかなり。 悩ましきに、牛ながら引き入れつべからむ所を」 とのたまふ。 忍び忍びの御方違へ所は、あまたありぬべけれど、久しくほど経て渡りたまへるに、方塞げて、ひき違へ他ざまへと思さむは、いとほしきなるべし。 紀伊守に仰せ言賜へば、承りながら、退きて、 「伊予守の朝臣の家に慎むことはべりて、女房なむまかり移れるころにて、狭き所にはべれば、なめげなることやはべらむ」 と、下に嘆くを聞きたまひて、 「その人近からむなむ、うれしかるべき。 女遠き旅寝は、もの恐ろしき心地すべきを。 ただその几帳のうしろに」とのたまへば、 「げに、よろしき御座所にも」とて、人走らせやる。 いと忍びて、ことさらにことことしからぬ所をと、急ぎ出でたまへば、大臣にも聞こえたまはず、御供にも睦ましき限りしておはしましぬ。 「にはかに」とわぶれど、人も聞き入れず。 寝殿の東面払ひあけさせて、かりそめの御しつらひしたり。 水の心ばへなど、さる方にをかしくしなしたり。 田舎家だつ柴垣して、前栽など心とめて植ゑたり。 風涼しくて、そこはかとなき虫の声々聞こえ、蛍しげく飛びまがひて、をかしきほどなり。 人びと、渡殿より出でたる泉にのぞきゐて、酒呑む。 主人も肴求むと、こゆるぎのいそぎありくほど、君はのどやかに眺めたまひて、かの、中の品に取り出でて言ひし、この並ならむかしと思し出づ。 思ひ上がれる気色に聞きおきたまへる女なれば、ゆかしくて耳とどめたまへるに、この西面にぞ人のけはひする。 衣の音なひはらはらとして、若き声どもにくからず。 さすがに忍びて、笑ひなどするけはひ、ことさらびたり。 格子を上げたりけれど、守、「心なし」とむつかりて下しつれば、火灯したる透影、障子の上より漏りたるに、やをら寄りたまひて、「見ゆや」と思せど、隙もなければ、しばし聞きたまふに、この近き母屋に集ひゐたるなるべし、うちささめき言ふことどもを聞きたまへば、わが御上なるべし。 「いといたうまめだちて。 まだきに、やむごとなきよすが定まりたまへるこそ、さうざうしかめれ」 「されど、さるべき隈には、よくこそ、隠れ歩きたまふなれ」 など言ふにも、思すことのみ心にかかりたまへば、まづ胸つぶれて、「かやうのついでにも、人の言ひ漏らさむを、聞きつけたらむ時」などおぼえたまふ。 ことなることなければ、聞きさしたまひつ。 式部卿宮の姫君に朝顔奉りたまひし歌などを、すこしほほゆがめて語るも聞こゆ。 「くつろぎがましく、歌誦じがちにもあるかな、なほ見劣りはしなむかし」と思す。 守出で来て、灯籠掛け添へ、灯明くかかげなどして、御くだものばかり参れり。 「とばり帳も、いかにぞは。 さる方の心もとなくては、めざましき饗応ならむ」とのたまへば、 「何よけむとも、えうけたまはらず」と、かしこまりてさぶらふ。 端つ方の御座に、仮なるやうにて大殿籠もれば、人びとも静まりぬ。 主人の子ども、をかしげにてあり。 童なる、殿上のほどに御覧じ馴れたるもあり。 伊予介の子もあり。 あまたある中に、いとけはひあてはかにて、十二、三ばかりなるもあり。 「いづれかいづれ」など問ひたまふに、 「これは、故衛門督の末の子にて、いとかなしくしはべりけるを、幼きほどに後れはべりて、姉なる人のよすがに、かくてはべるなり。 才などもつきはべりぬべく、けしうははべらぬを、殿上なども思ひたまへかけながら、すがすがしうはえ交じらひはべらざめる」と申す。 「あはれのことや。 この姉君や、まうとの後の親」 「さなむはべる」と申すに、 「似げなき親をも、まうけたりけるかな。 主上にも聞こし召しおきて、『宮仕へに出だし立てむと漏らし奏せし、いかになりにけむ』と、いつぞやのたまはせし。 世こそ定めなきものなれ」と、いとおよすけのたまふ。 「不意に、かくてものしはべるなり。 世の中といふもの、さのみこそ、今も昔も、定まりたることはべらね。 中についても、女の宿世は浮かびたるなむ、あはれにはべる」など聞こえさす。 「伊予介は、かしづくや。 君と思ふらむな」 「いかがは。 私の主とこそは思ひてはべるめるを、好き好きしきことと、なにがしよりはじめて、うけひきはべらずなむ」と申す。 「さりとも、まうとたちのつきづきしく今めきたらむに、おろしたてむやは。 かの介は、いとよしありて気色ばめるをや」など、物語したまひて、 「いづかたにぞ」 「皆、下屋におろしはべりぬるを、えやまかりおりあへざらむ」と聞こゆ。 酔ひすすみて、皆人びと簀子に臥しつつ、静まりぬ。 君は、とけても寝られたまはず、いたづら臥しと思さるるに御目覚めて、この北の障子のあなたに人のけはひするを、「こなたや、かくいふ人の隠れたる方ならむ、あはれや」と御心とどめて、やをら起きて立ち聞きたまへば、ありつる子の声にて、 「ものけたまはる。 いづくにおはしますぞ」 と、かれたる声のをかしきにて言へば、 「ここにぞ臥したる。 客人は寝たまひぬるか。 いかに近からむと思ひつるを、されど、け遠かりけり」 と言ふ。 寝たりける声のしどけなき、いとよく似通ひたれば、いもうとと聞きたまひつ。 「廂にぞ大殿籠もりぬる。 音に聞きつる御ありさまを見たてまつりつる、げにこそめでたかりけれ」と、みそかに言ふ。 「昼ならましかば、覗きて見たてまつりてまし」 とねぶたげに言ひて、顔ひき入れつる声す。 「ねたう、心とどめても問ひ聞けかし」とあぢきなく思す。 「まろは端に寝はべらむ。 あなくるし」 とて、灯かかげなどすべし。 女君は、ただこの障子口筋交ひたるほどにぞ臥したるべき。 「中将の君はいづくにぞ。 人げ遠き心地して、もの恐ろし」 と言ふなれば、長押の下に、人びと臥して答へすなり。 「下に湯におりて。 『ただ今参らむ』とはべる」と言ふ。 皆静まりたるけはひなれば、掛金を試みに引きあけたまへれば、あなたよりは鎖さざりけり。 几帳を障子口には立てて、灯はほの暗きに、見たまへば唐櫃だつ物どもを置きたれば、乱りがはしき中を、分け入りたまへれば、ただ一人いとささやかにて臥したり。 なまわづらはしけれど、上なる衣押しやるまで、求めつる人と思へり。 「中将召しつればなむ。 人知れぬ思ひの、しるしある心地して」 とのたまふを、ともかくも思ひ分かれず、物に襲はるる心地して、「や」とおびゆれど、顔に衣のさはりて、音にも立てず。 「うちつけに、深からぬ心のほどと見たまふらむ、ことわりなれど、年ごろ思ひわたる心のうちも、聞こえ知らせむとてなむ。 かかるをりを待ち出でたるも、さらに浅くはあらじと、思ひなしたまへ」 と、いとやはらかにのたまひて、鬼神も荒だつまじきけはひなれば、はしたなく、「ここに、人」とも、えののしらず。 心地はた、わびしく、あるまじきことと思へば、あさましく、 「人違へにこそはべるめれ」と言ふも息の下なり。 消えまどへる気色、いと心苦しくらうたげなれば、をかしと見たまひて、 「違ふべくもあらぬ心のしるべを、思はずにもおぼめいたまふかな。 好きがましきさまには、よに見えたてまつらじ。 思ふことすこし聞こゆべきぞ」 とて、いと小さやかなれば、かき抱きて障子のもと出でたまふにぞ、求めつる中将だつ人来あひたる。 「やや」とのたまふに、あやしくて探り寄りたるにぞ、いみじく匂ひみちて、顔にもくゆりかかる心地するに、思ひ寄りぬ。 あさましう、こはいかなることぞと思ひまどはるれど、聞こえむ方なし。 並々の人ならばこそ、荒らかにも引きかなぐらめ、それだに人のあまた知らむは、いかがあらむ。 心も騷ぎて、慕ひ来たれど、動もなくて、奥なる御座に入りたまひぬ。 障子をひきたてて、「暁に御迎へにものせよ」とのたまへば、女は、この人の思ふらむことさへ、死ぬばかりわりなきに、流るるまで汗になりて、いと悩ましげなる、いとほしけれど、例の、いづこより取う出たまふ言の葉にかあらむ、あはれ知らるばかり、情け情けしくのたまひ尽くすべかめれど、なほいとあさましきに、 「現ともおぼえずこそ。 数ならぬ身ながらも、思しくたしける御心ばへのほども、いかが浅くは思うたまへざらむ。 いとかやうなる際は、際とこそはべなれ」 とて、かくおし立ちたまへるを、深く情けなく憂しと思ひ入りたるさまも、げにいとほしく、心恥づかしきけはひなれば、 「その際々を、まだ知らぬ、初事ぞや。 なかなか、おしなべたる列に思ひなしたまへるなむうたてありける。 おのづから聞きたまふやうもあらむ。 あながちなる好き心は、さらにならはぬを。 さるべきにや、げに、かくあはめられたてまつるも、ことわりなる心まどひを、みづからもあやしきまでなむ」 など、まめだちてよろづにのたまへど、いとたぐひなき御ありさまの、いよいようちとけきこえむことわびしければ、すくよかに心づきなしとは見えたてまつるとも、さる方の言ふかひなきにて過ぐしてむと思ひて、つれなくのみもてなしたり。 人柄のたをやぎたるに、強き心をしひて加へたれば、なよ竹の心地して、さすがに折るべくもあらず。 まことに心やましくて、あながちなる御心ばへを、言ふ方なしと思ひて、泣くさまなど、いとあはれなり。 心苦しくはあれど、見ざらましかば口惜しからまし、と思す。 慰めがたく、憂しと思へれば、 「など、かく疎ましきものにしも思すべき。 おぼえなきさまなるしもこそ、契りあるとは思ひたまはめ。 むげに世を思ひ知らぬやうに、おぼほれたまふなむ、いとつらき」と恨みられて、 「いとかく憂き身のほどの定まらぬ、ありしながらの身にて、かかる御心ばへを見ましかば、あるまじき我が頼みにて、見直したまふ後瀬をも思ひたまへ慰めましを、いとかう仮なる浮き寝のほどを思ひはべるに、たぐひなく思うたまへ惑はるるなり。 よし、今は見きとなかけそ」 とて、思へるさま、げにいとことわりなり。 おろかならず契り慰めたまふこと多かるべし。 鶏も鳴きぬ。 人びと起き出でて、 「いといぎたなかりける夜かな」 「御車ひき出でよ」 など言ふなり。 守も出で来て、 「女などの御方違へこそ。 夜深く急がせたまふべきかは」など言ふもあり。 君は、またかやうのついであらむこともいとかたく、さしはへてはいかでか、御文なども通はむことのいとわりなきを思すに、いと胸いたし。 奥の中将も出でて、いと苦しがれば、許したまひても、また引きとどめたまひつつ、 「いかでか、聞こゆべき。 世に知らぬ御心のつらさも、あはれも、浅からぬ世の思ひ出では、さまざまめづらかなるべき例かな」 とて、うち泣きたまふ気色、いとなまめきたり。 鶏もしばしば鳴くに、心あわたたしくて、 「つれなきを恨みも果てぬしののめに とりあへぬまでおどろかすらむ」 女、身のありさまを思ふに、いとつきなくまばゆき心地して、めでたき御もてなしも、何ともおぼえず、常はいとすくすくしく心づきなしと思ひあなづる伊予の方の思ひやられて、「夢にや見ゆらむ」と、そら恐ろしくつつまし。 「身の憂さを嘆くにあかで明くる夜は とり重ねてぞ音もなかれける」 ことと明くなれば、障子口まで送りたまふ。 内も外も人騒がしければ、引き立てて、別れたまふほど、心細く、隔つる関と見えたり。 御直衣など着たまひて、南の高欄にしばしうち眺めたまふ。 西面の格子そそき上げて、人びと覗くべかめる。 簀子の中のほどに立てたる小障子の上より仄かに見えたまへる御ありさまを、身にしむばかり思へる好き心どもあめり。 月は有明にて、光をさまれるものから、かげけざやかに見えて、なかなかをかしき曙なり。 何心なき空のけしきも、ただ見る人から、艶にもすごくも見ゆるなりけり。 人知れぬ御心には、いと胸いたく、言伝てやらむよすがだになきをと、かへりみがちにて出でたまひぬ。 殿に帰りたまひても、とみにもまどろまれたまはず。 またあひ見るべき方なきを、まして、かの人の思ふらむ心の中、いかならむと、心苦しく思ひやりたまふ。 「すぐれたることはなけれど、めやすくもてつけてもありつる中の品かな。 隈なく見集めたる人の言ひしことは、げに」と思し合はせられけり。 このほどは大殿にのみおはします。 なほいとかき絶えて、思ふらむことのいとほしく御心にかかりて、苦しく思しわびて、紀伊守を召したり。 「かの、ありし中納言の子は、得させてむや。 らうたげに見えしを。 身近く使ふ人にせむ。 主上にも我奉らむ」とのたまへば、 「いとかしこき仰せ言にはべるなり。 姉なる人にのたまひみむ」 と申すも、胸つぶれて思せど、 「その姉君は、朝臣の弟や持たる」 「さもはべらず。 この二年ばかりぞ、かくてものしはべれど、親のおきてに違へりと思ひ嘆きて、心ゆかぬやうになむ、聞きたまふる」 「あはれのことや。 よろしく聞こえし人ぞかし。 まことによしや」とのたまへば、 「けしうははべらざるべし。 もて離れてうとうとしくはべれば、世のたとひにて、睦びはべらず」と申す。 さて、五六日ありて、この子率て参れり。 こまやかにをかしとはなけれど、なまめきたるさまして、あて人と見えたり。 召し入れて、いとなつかしく語らひたまふ。 童心地に、いとめでたくうれしと思ふ。 いもうとの君のことも詳しく問ひたまふ。 さるべきことは答へ聞こえなどして、恥づかしげにしづまりたれば、うち出でにくし。 されど、いとよく言ひ知らせたまふ。 かかることこそはと、ほの心得るも、思ひの外なれど、幼な心地に深くしもたどらず。 御文を持て来たれば、女、あさましきに涙も出で来ぬ。 この子の思ふらむこともはしたなくて、さすがに、御文を面隠しに広げたり。 いと多くて、 「見し夢を逢ふ夜ありやと嘆くまに 目さへあはでぞころも経にける 寝る夜なければ」 など、目も及ばぬ御書きざまも、霧り塞がりて、心得ぬ宿世うち添へりける身を思ひ続けて臥したまへり。 またの日、小君召したれば、参るとて御返り乞ふ。 「かかる御文見るべき人もなし、と聞こえよ」 とのたまへば、うち笑みて、 「違ふべくものたまはざりしものを。 いかが、さは申さむ」 と言ふに、心やましく、残りなくのたまはせ、知らせてけると思ふに、つらきこと限りなし。 「いで、およすけたることは言はぬぞよき。 さは、な参りたまひそ」とむつかられて、 「召すには、いかでか」とて、参りぬ。 紀伊守、好き心にこの継母のありさまをあたらしきものに思ひて、追従しありけば、この子をもてかしづきて、率てありく。 君、召し寄せて、 「昨日待ち暮らししを。 なほあひ思ふまじきなめり」 と怨じたまへば、顔うち赤めてゐたり。 「いづら」とのたまふに、しかしかと申すに、 「言ふかひなのことや。 あさまし」とて、またも賜へり。 「あこは知らじな。 その伊予の翁よりは、先に見し人ぞ。 されど、頼もしげなく頚細しとて、ふつつかなる後見まうけて、かく侮りたまふなめり。 さりとも、あこはわが子にてをあれよ。 この頼もし人は、行く先短かりなむ」 とのたまへば、「さもやありけむ、いみじかりけることかな」と思へる、「をかし」と思す。 この子をまつはしたまひて、内裏にも率て参りなどしたまふ。 わが御匣殿にのたまひて、装束などもせさせ、まことに親めきてあつかひたまふ。 御文は常にあり。 されど、この子もいと幼し、心よりほかに散りもせば、軽々しき名さへとり添へむ、身のおぼえをいとつきなかるべく思へば、めでたきこともわが身からこそと思ひて、うちとけたる御答へも聞こえず。 ほのかなりし御けはひありさまは、「げに、なべてにやは」と、思ひ出できこえぬにはあらねど、「をかしきさまを見えたてまつりても、何にかはなるべき」など、思ひ返すなりけり。 君は思しおこたる時の間もなく、心苦しくも恋しくも思し出づ。 思へりし気色などのいとほしさも、晴るけむ方なく思しわたる。 軽々しく這ひ紛れ立ち寄りたまはむも、人目しげからむ所に、便なき振る舞ひやあらはれむと、人のためもいとほしく、と思しわづらふ。 例の、内裏に日数経たまふころ、さるべき方の忌み待ち出でたまふ。 にはかにまかでたまふまねして、道のほどよりおはしましたり。 紀伊守おどろきて、遣水の面目とかしこまり喜ぶ。 小君には、昼より、「かくなむ思ひよれる」とのたまひ契れり。 明け暮れまつはし馴らしたまひければ、今宵もまづ召し出でたり。 女も、さる御消息ありけるに、思したばかりつらむほどは、浅くしも思ひなされねど、さりとて、うちとけ、人げなきありさまを見えたてまつりても、あぢきなく、夢のやうにて過ぎにし嘆きを、またや加へむ、と思ひ乱れて、なほさて待ちつけきこえさせむことのまばゆければ、小君が出でて往ぬるほどに、 「いとけ近ければ、かたはらいたし。 なやましければ、忍びてうち叩かせなどせむに、ほど離れてを」 とて、渡殿に、中将といひしが局したる隠れに、移ろひぬ。 さる心して、人とく静めて、御消息あれど、小君は尋ねあはず。 よろづの所求め歩きて、渡殿に分け入りて、からうしてたどり来たり。 いとあさましくつらし、と思ひて、 「いかにかひなしと思さむ」と、泣きぬばかり言へば、 「かく、けしからぬ心ばへは、つかふものか。 幼き人のかかること言ひ伝ふるは、いみじく忌むなるものを」と言ひおどして、「『心地悩ましければ、人びと避けずおさへさせてなむ』と聞こえさせよ。 あやしと誰も誰も見るらむ」 と言ひ放ちて、心の中には、「いと、かく品定まりぬる身のおぼえならで、過ぎにし親の御けはひとまれるふるさとながら、たまさかにも待ちつけたてまつらば、をかしうもやあらまし。 しひて思ひ知らぬ顔に見消つも、いかにほど知らぬやうに思すらむ」と、心ながらも、胸いたく、さすがに思ひ乱る。 「とてもかくても、今は言ふかひなき宿世なりければ、無心に心づきなくて止みなむ」と思ひ果てたり。 君は、いかにたばかりなさむと、まだ幼きをうしろめたく待ち臥したまへるに、不用なるよしを聞こゆれば、あさましくめづらかなりける心のほどを、「身もいと恥づかしくこそなりぬれ」と、いといとほしき御気色なり。 とばかりものものたまはず、いたくうめきて、憂しと思したり。 「帚木の心を知らで園原の 道にあやなく惑ひぬるかな 聞こえむ方こそなけれ」 とのたまへり。 女も、さすがに、まどろまざりければ、 「数ならぬ伏屋に生ふる名の憂さに あるにもあらず消ゆる帚木」 と聞こえたり。 小君、いといとほしさに眠たくもあらでまどひ歩くを、人あやしと見るらむ、とわびたまふ。 例の、人びとはいぎたなきに、一所すずろにすさまじく思し続けらるれど、人に似ぬ心ざまの、なほ消えず立ち上れりける、とねたく、かかるにつけてこそ心もとまれと、かつは思しながら、めざましくつらければ、さばれと思せども、さも思し果つまじく、 「隠れたらむ所に、なほ率て行け」とのたまへど、 「いとむつかしげにさし籠められて、人あまたはべるめれば、かしこげに」 と聞こゆ。 いとほしと思へり。 「よし、あこだに、な捨てそ」 とのたまひて、御かたはらに臥せたまへり。 若くなつかしき御ありさまを、うれしくめでたしと思ひたれば、つれなき人よりは、なかなかあはれに思さるとぞ。 ホームページアドレス: 自分のホームページを作成しようと思っていますか?.

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源氏物語 帚木 原文 現代語訳 対比 / think_leisurely

いかに心もとなく思すらむ 現代語訳

古典が分からないです、大江山の歌の問題を教えてください 大江山の歌について答えよ 和泉式部、保昌が妻にて、丹後に下りけるほどに、京に歌合ありけるを、小式部内侍、 歌詠みにとられて、歌を詠みけるに、定頼 の中納言たはぶれて、小式部内侍ありけるに、 「丹後へ遣はしける人は参りたりや。 いかに心もとなく思すらむ。 」 と言ひて、局の前を過ぎられけるを、御簾より半らばかり出でて、わづかに直衣の袖を控へて 大江山いくのの道の遠ければまだふみもみず天の橋立 と詠みかけけり。 思はずに、あさましくて、 「こはいかに、かかるやうやはある。 」 とばかり言ひて、返歌にも及ばず、袖を引き放ちて逃げられけり。 小式部、これより、歌詠みの世におぼえ出で来にけり。 上記の文を読んでこれらの問題を教えてください 問題1 「いくの」は掛詞であるが、何と何が掛けられているか? 問題2「いくの」以外にもう一つ掛詞があるが、それはどの言葉か。 和歌から抜き出しなさい。 以上です。 ご回答よろしくお願いします。 A ベストアンサー 小6で中学の数学を勉強するというのは全然おかしくないし、敢えて言えば、普通のこと(特に、進学校では)。 私もやってたから(塾+参考書を使っての独学で)、全然無理なことじゃない。 とは言っても、塾で教えているんなら、それをきちんと教えるのが塾の仕事でしょ、という気がするが。 小6で中学の数学を勉強するというのは全然おかしくないし、敢えて言えば、普通のこと(特に、進学校では)。 私もやってたから(塾+参考書を使っての独学で)、全然無理なことじゃない。 とは言っても、塾で教えているんなら、それをきちんと教えるのが塾の仕事でしょ、という気がするが。 (より詳しく言えば、「足し算・引き算で表されている数式をカ... A ベストアンサー 詳しいことは分かりませんが、近世、江戸時代中期に、江戸などの芸娼妓、女郎が[わたくし]という発音で自分のことを言ったり、それをさらに[わたい]とか[わたし]というようになったのが出発点らしいです。 それよりも以前は、[わたくし・私]は[公]に相対する意味で使うのが普通だったようで、ただの自称の代名詞のような使い方はあまりしなかったようです。 また、[わたし]が変化して[あたい][あて]という言い方も女の自称として使われ、大阪や京都では[わい][うち][わて]も使われ、江戸や関西でも女だけでなく男も自称用に使うように広がったようです。 綿 わた 、渡し わたし は発音できて、私 わたくし、わたし は《タ抜き》になるというのは考えにくいのだと思います。 どちらにしても、近世になって自称に[わたくし]や[わたし]を使うようになったのは女が潜行したのだろうと思います。 そして3音を2音にして[わし][わい][うち][わて]のようにしたのも近世の女、特に色町の女ではないかと思います。 詳しいことは分かりませんが、近世、江戸時代中期に、江戸などの芸娼妓、女郎が[わたくし]という発音で自分のことを言ったり、それをさらに[わたい]とか[わたし]というようになったのが出発点らしいです。 それよりも以前は、[わたくし・私]は[公]に相対する意味で使うのが普通だったようで、ただの自称の代名詞のような使い方はあまりしなかったようです。 また、[わたし]が変化して[あたい][あて]という言い方も女の自称として使われ、大阪や京都では[わい][うち][わて]も使われ、江戸や関西でも女だけでなく男... A ベストアンサー Nativeは習慣として何気なく使い分けていますが、実はこれ、かなりややっこしいのです。 場合によっては、論理的(数学的?)に反省しながら注意深く使い分けないと、混乱が生じます。 [1] おきに 「n[UNIT]おきに」という表現は、「間隙 interval がn[UNIT]である周期を作るように」ということです。 しかし、これだけでは、意味が決まらない。 1 離散的 discrete な同類のものごと(すなわち、個数が数えられるものごと)を並べた列を考える場合 ある日, 次の日, さらに次の日…という列、ある年, 次の年, さらに次の年…という列、(一列に並んだ人たちの)ある人, その隣の人, さらにその隣の人…という列を、「離散的な同類の個体が繰り返されている列」とみなす、ということです。 薬を一日おきに飲む。 一年おきに大会が開かれる。 ひとりおきに帽子をかぶる。 ふたりおきに帽子をかぶる。 という意味になる。 たとえば、「2019年12月に大会があり、次の大会は2021年1月」ということもありうるのです。 ) 2 連続的な一連のものごとを考える場合。 UNITが 1時間 1 hour の場合を考えますと、例えば朝8時00分から9時00分までの1時間と、午後7時から午後8時までの1時間を、それぞれ「個体」とはちょっと思えないでしょう。 なので時間の経過を「個数が数えられる、離散的な同類の個体が繰り返されている列」とは捉えられません。 実際、「年(とし)」「日(ひ)」「人(ひと)」はある「個体」を指す名詞として成立するが、「時間」はそうではない。 「この時間はニュースをお伝えします」という表現の「時間」の長さは1 hourとは限らない。 つまり、「時間」は「個体」になっておらず、離散的ではない(個数を数えることができない)。 すると、 薬を2時間おきに飲む。 (ただし、「2時間」という指定の精度を考慮すると、「13分」は誤差の範囲とみなされます。 だから、6時13分に薬を飲めば、6時ごろに薬を飲んだのだから、次に飲むのは8時ごろ、ということです。 ) 薬を24時間おきに飲む。 (ただし、「24時間」という指定の精度を考慮すると、5月8日6時13分に薬を飲めば、5月8日の朝に薬を飲んだのだから、次に飲むのは5月9日の朝、ということです。 特に注意が必要です。 だから、あいまいな表現です。 使うべきではありません。 [2] ごとに 「n[UNIT]ごとに」という表現は、「every n[UNIT]」ということですが、そのUNITたちが、必ずしも一列に並んでいなくても構いません。 ただし「UNITをひとつずつ数える」という過程が伴っています。 たとえば「クラスの一人ごとに鉛筆を1本与える」とすると、クラスの全員がそれぞれ1本ずつ鉛筆を受け取るということです。 しかし、「全員ひとり1本ずつ鉛筆を取りなさい」という命令を出して鉛筆の山にクラス全員が一斉に殺到したとしますと、それは(「鉛筆を一人に1本与え」ているけれども、)「一人ごとに鉛筆を1本与える」にはなっていない。 「一人ごとに鉛筆を1本与える」ためには、「ある一人に鉛筆を手渡して、次の(まだ鉛筆を貰っていない)人に鉛筆を手渡して、…」というsequenceを行う必要があります。 「五人ごとにボール1個を与える」場合にも同様に、「5人を数えてグループを作り、そのグループにボールを1個与える」という操作を反復するのです。 なお、このボールが5人のうちの誰のものかは指定されていませんから、5人の共有物である、ということが暗示されています。 この杭から、道路にそって10mごとに杭を打つ。 という場合、道路にそって巻尺を伸ばして行って、直前に打った杭から10m離れたら、その場所に杭を打つ、という操作を反復する。 その結果、杭を10mおきに [1] 2 の解釈)打つことになります。 三日ごとに薬を飲む。 のであれば、最後に薬を飲んでから時間を測って、三日経過したら、その時に薬を飲む、という操作を反復する。 その結果、薬を3日おきに [1] 2 の解釈)飲むことになります。 Nativeは習慣として何気なく使い分けていますが、実はこれ、かなりややっこしいのです。 場合によっては、論理的(数学的?)に反省しながら注意深く使い分けないと、混乱が生じます。 [1] おきに 「n[UNIT]おきに」という表現は、「間隙 interval がn[UNIT]である周期を作るように」ということです。 しかし、これだけでは、意味が決まらない。 1 離散的 discrete な同類のものごと(すなわち、個数が数えられるものごと)を並べた列を考える場合 ある日, 次の日, さらに次の日…という列、ある年, 次の年,...

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